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心配から眉をひそめるテユ様の顔に、もう子供を産むのは嫌だと拒否されたらどうしよう、と書いてあります。うふふ、なんだかテユ様が幼く感じますね。ぎゅっと拳を握る姿に、微笑んで否定しました。
「違いますわ。出産って話に聞くと逆子だったり大変なのでしょう? なのに、つるんと卵を産んでしまって……ずるをした気分です」
大きな卵を産んだせいで痛みに青ざめていた頬も、今は血の気が戻ってきました。産む時に力を込めて白かった指先もピンクに染まっています。赤ちゃんが元気に泣いたのも聞いて、授乳も済ませたらほっとしました。
向かい側でベッドの端に腰掛けたフランカが、羨ましいと口にしていますね。
「私も卵で産みたいですわ」
「まだ半年以上も先の話でしょう」
笑う私が指摘したとおり、フランシスカのお腹にはクラリーサの従弟か従妹になる子が宿っています。人間同士の子なので、当然赤子の形で産むことになるのは間違いありません。
前世で兄だったアグニ様が、俺も立ち会うと騒いでおられましたね。リオ兄様、ちゃんと排除できるのかしら。
「フランカのお産は私が手伝うわね」
「お願いするわ。手を握っててもらうと安心するもの」
「リオ兄様が手を握るのではなくて?」
私の指摘通り、義姉フランカを溺愛する兄様は出産に立ち会うはず。手を握って励まし、下手すれば産婆の仕事を覚えて手伝うと言い出すかも。下手に多才な方ですから、本当にやりかねません。
全員が同じところまで想像したらしく、大きな溜め息が重なりました。
「そういえば、ベクトルとエミリオが我らの宝を見たいと言っていたな。呼んでこよう」
頷いた私の腕の中で猫のように丸まって、クラリーサはぐっすり夢の中――その愛らしさに頬を緩めながら、テユ様が部屋を出ました。お父様とリオ兄様を迎えに行かれたのでしょう。
心地よい疲れに私も眠くなり、クッションに埋もれて窓の外を見つめます。今日も空は曇っていて、結婚式前日を思い出しました。あの日雲が割れて、竜の光が降り注いだ祝福の美しさは今も忘れられませんわ。
きっと、あの日に私達の光であるクラリーサへの祝福を貰ったのだわ。
半分眠りかけた私の目に、雲を割って竜が舞い降りるのが見えました。共有したテユ様の意識から、竜帝の姫に会いに来てくれたのでしょう。
最初の出会いの夜と同じ、螺旋を描きながら……くるりくるりと降りてきます。その中央に降り注ぐ竜の光がとても綺麗で。ゆっくりと目を閉じる私の胸にかかる我が子の重さも、「眠るの?」と声をかけた伯母様の声や、上掛けをかけてくれるフランカの指先。すべてが幸福を運んでくれました。
母になってようやくこの言葉が言えますね。お母様、私を産んでくださってありがとうございます。
閉じた瞼の裏に竜の光が差し込んだ気がして、心の中で呟く。
――竜舞う空の下で、私、とても幸せです。
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