第1話 叱られちゃったわ

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 叱られる私に気づき、空を舞う色とりどりの竜が慌てて降りてくる。あっという間に竜が増えた。 「竜妃殿下、竜は空を飛ぶ生き物ですぞ」 「そうです。まだ幼いゆえ、遠くへ飛べぬ姫が屋敷の上を飛ぶのは、仕方ないではありませぬか」  竜帝の第一皇女である私を庇う竜達の援護に、竜妃であるお母様の眉が上がった。あ、皆が叱られちゃう! 慌てて私は謝罪を口にした。 「ごめんなさい、お母様。私が悪いの、だから皆を叱らないで」  庇う姿勢を見せた娘に、お母様は腰に当てた手をお腹に移動しながら溜め息をついた。呆れたのかと恐る恐る目を向ければ、ぎゅっと抱き締められる。まだ小さいとはいえ、竜の時はお母様を見下ろす大きさがある。出来るだけ動かないよう、息を詰めて見守った。  庇ってくれた皆も竜から人になっていた。お母様が少し手を緩めた隙に、そっと人の姿に戻る。朝選んだピンクのワンピースに、赤いリボンを思い浮かべて、広げられたお母様の腕に収まった。  大きなお腹を包むスカートに顔を埋めて、目いっぱい抱き締める。  今のお母様は身重というらしい。お腹に赤ちゃんがいるの。  近々弟か妹が生まれると聞いて、嬉しくて空を舞っていたのだけど、お母様は心配だったのね。前に屋敷の上を飛んで落ちたことがあるから。  あの時は、アグニ兄様が下敷きになって守ってくれたからケガはなかった。でもお屋敷の屋根に落ちて半壊してしまったの。お屋敷が直るまで3日もかかったわ。竜が総出で手伝ってくれなかったら、もっと長くかかるんですって……大変なのね。  私のお部屋も壊れたから、お母様の実家でフランシスカ伯母様が住むメレディアス公爵家に泊めてもらった。アデライダ大伯母様が毎日遊んでくれて、フランシスカ伯母様もエミリオ伯父様も優しくて楽しい思い出。でも悪いことをしたから叱られたわ。  従兄弟のクルスとも仲良くなったから、反省したけど私は悪いことばかりじゃなかった。 「心配させないでちょうだい、リサ」  愛称で呼ぶ母の柔らかな声に、「はい」と頷いた。顔を上げると目を細めて笑う、柔らかくて優しくて厳しいお母様に頬を摺り寄せる。  親子喧嘩でなかったと胸を撫で下ろす竜の中には、皇女に庇っていただいたと感激して泣き出す老竜もいた。  お爺ちゃん、この頃涙もろいの。だから用意したハンカチを差し出した。それを掴んでさらに泣くんだもの。ハンカチに玉ねぎを仕込んだりしてないわよ?  以前アグニ兄様に試した悪戯だけど、直前で気づかれちゃったの。玉ねぎは匂いでバレちゃうのよね。 「ほら、皆も屋敷に戻って。もうすぐ夕食です」  お母様の号令で、皆は屋敷へ戻っていった。
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