【エイプリルフール】

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 四方を真っ白な壁で囲まれた一室(そこ)は、与えられた条件題目を満たさないと出られない部屋――。  誰の仕業か悪戯なのか。大抵は(ろく)でもない条件が設定されるのが殆どだ。  そして、二人以上の複数人が(いざな)われ、右往左往とする場所である。 「――『キスをしないと出られない部屋』だあ?」  目を覚ました早々に何も無い殺風景な部屋を訝しみ、床に置かれていた紙を見つけ、書かれている文字を見てから非常に不機嫌な声が漏れた。 「俺とお前が? 何が悲しくてそんなマネをしなくちゃならない。なんの冗談だって言うんだ? 寝言は寝てから言え。お前の頭の中は筋肉だけじゃなくてお花畑状態なのか、この脳筋馬鹿が!」 「えええ。全力で拒否とか地味に傷付くから止めてよ。それにその悪口は酷いっ!」  赤茶色の髪と瞳の少年――、ハルが早口に口悪く誣言(ふげん)を捲し立てれば、黒髪に紺碧の瞳を有する青年ヒロが怯んだ様子で返した。  真っ白な(くだん)の部屋にハルとヒロ以外の姿は無い。そのことがハルの苛立ちに拍車をかけていた。それは、ついつい手にした条件の書かれた紙を握りつぶしてしまうほど。  これで女子の一人でもいれば、妥協として題目を満たそうという気にもなっただろう。  しかし――、ハルにとっては不幸なことに、今この場には同性であるヒロしかいないのだ。いくらヒロが端正な女顔だと()えど、生憎とハルには()()()()()()は無い。  そうした思いを更に早口多弁で綴っていけば、ヒロの顔色が不服の色で満ちていった。 「そりゃあさ、僕だってチューするなら女の子が良いよ。だけど今はハルしかいないんだから、仕方ないじゃない」 「仕方なくない。――お前とどうこうするっていうくらいなら、“喰神の烙印(これ)”を使って部屋を壊してでも出る」 「うわあ。本当に全力の全力で拒否じゃん。“呪いの烙印”引っ張り出す苦労をしてまで僕とチューするのはイヤなの?」 「イヤに決まっているだろうがっ!! つべこべ言っていないでお前も“海神(わたつみ)の烙印”を使えっ!!」 「えっ?! イヤだよっ!! 僕がこれを使ったらどうなるか、君だって知っているでしょうっ?!」  ハルが革手袋を嵌めた左手を示して強制的な脱出手段を提言すると、ヒロは(たちま)ち顔色を変えて拒否を露わにした。  だけれども、ハルは意に介せず、「さっさとしろ」と言いたげな白眼視を投げ掛けてくる始末。
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