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「もう。とりあえず冷えちゃうから、いったん布団ちょうだい」
「ダメだってば。早く支度しましょう」
掛布団に伸ばされてきた手を軽く叩いて去なせば、ヒロは「むー」と喉を鳴らして頬を膨らませた。
少し調子に乗りすぎたかしらなんて思わなくもないけど、今日はダラダラと過ごすわけにもいかないんだから仕方ないでしょ。
「……いつか絶対に仕返ししてやるんだからね。覚悟しといてよ」
「ふふん。『いつか』がいつになることやら、ね。ヒロが私より先に起きるのって殆ど無いじゃない」
泣いたって許さない的に凄むように言われるけど、本気で怒っているわけじゃないのが分かるので怖くない。
最近はそういう雰囲気で戯れた舌戦することが多いので猶更だった。
そんな風に思って頬を緩めていたら、不意に早い動きでヒロの腕が再び伸ばされてくる。
あっと思った時には腕を掴まれて引っ張られる。完全不意打ちで反応が全くできず、強引な引く力に抗えずに前のめりに倒れ込んでしまった。
「その『いつか』っていうのが、いつ『ビアンカが寝ている時』なんて言ったかなあ?」
至極近い距離で声が聞こえて視線を動かすと、至極近い距離にヒロの顔が見える。しかも意地悪げに目を細めて笑っている。
引き倒されたと同時に掴まれた腕が離されて、慌てて適当に手を付いたらヒロの胸元へ凭れるようにして抱き留められたらしい。
掌には鍛えられて硬い胸板の感触。――ここに触るといつも思うんだけど、絶対にヒロの方が私より胸があると思うのよね――って現実逃避している場合じゃなかったわ。
なになに何でこういう状況になるのだろう。背中と腰辺りに腕が回されているようで、がっちりと捕まっていて身を引くこともできない。
「――ってなワケで、早速だけど仕返しターイム。君にはこのまま僕を温めてもらうからねー」
「ちょちょ、ちょっとっ! なんでそうなるのっ!? さっきも言ったけど朝ご飯を食べる時間が無くなっちゃうってばっ!!」
「朝ご飯の代わりにビアンカを食べるからいいよ」
「ひゃいっ?!」
普段よりも幾分か低く甘い声で囁かれ、瞬時に意味を悟って途端に顔が熱くなった。頬っぺただけじゃなくて耳まで赤くなっているはず。
私の反応を見てヒロは嬉しそうに――というか、にやにやと笑っている。
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