【十一月十七日】

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 赤茶の双眸が波模様を描いた盤面と、その上に乗った帆船と人の姿を象る駒を眺め、次の一手を熟考する。  赤茶の髪と同じ色の眉が寄って眉間に皺を刻んでいるのを、この少年――ハルは気付いていない。  ハルが顔を顰めて難しい顔をしているのが面白く、つい笑いを溢しそうになったが、それは何とか押し込めた。 「――ハル君は何が欲しい?」  なんの前振りもなく質問を投げ掛ければ、ハルの眉間の皺が増々深くなった。  海戦を模したボードゲームの盤上を見据えていた赤茶の瞳が、唐突な問いの(ぬし)へ向く。  ハルの視線の先、ボードゲームの盤面諸々が置かれるテーブルを挟んだ席に居座るのは、彼へ真っ直ぐに藤色の瞳を向ける美丈夫だ。  腰まで伸びる(うね)の強い黒髪を瞳と同色のリボンで一つに結んだ青年――、否。男装の麗人シャルロットことシャロはハルと視線を合わせ、瞳を細めて優しげに微笑んでいる。  だが、ハルは黙したまま。しかし、表情は「何を言っている?」と大いに語り、シャロに捕捉を継がせた。 「もうじき、十一月十七日。この日はハル君の誕生日だと聞いてね。いつも私の暇潰しに付き合ってくれている礼も兼ね、何か贈り物をしたいと考えているんだ」  本当ならばサプライズでも良かったのだけれど、物を贈るにしても個人の好みがあるからね――。  穏やかにシャロが口にしていくが、ハルのかんばせは怪訝と不快の色を帯び始めている。 「……なんであんたが俺の誕生日を知っている?」  確かに自分の誕生日は間近である。しかしながら、今更と誕生日を意識することも無く、誰かに祝ってもらうために公言することも無かった。  なのにも関わらず、シャロが知っていたのが謎過ぎる。そう思っていれば、シャロは尚も微笑で口端に弧を描き、くすくすと笑いを溢し始めた。 「少し前に軍主殿が吹聴して回っていてね。『ハルの誕生日を聞き出せた』といたくご満悦だったよ」 「ああ……、言われてみれば。前に聞かれたな……」  そういえば、と思い出した。少し前に同盟軍の軍主――ヒロにしつこく絡まれ、誕生日を教えてくれとせがまれて答えていたのだ。  適当な言承(ことうけ)を述べて適当にあしらっておけばよかったものを、何故(なにゆえ)馬鹿正直に答えてしまったのかとも思う。そして、ヒロが吹聴して回っていたということに、怒りを覚えずにはいられない。  あいつには守秘義務の概念が無いのか。あとで出くわしたら殴ってやろう、などと密かに決めるほどである。
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