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「軍主殿があれだけ喜色満面だったのだし、お祝いの用意をしてくれるかもしれないね」
シャロが愉しげに言うものだから、思わず想像してしまいゾッとした。
ハルは他者と関わるのを由としない性分だ。同盟軍の面々に慣れてきた今でさえ、ある程度の距離を保つようにしている。
ただでさえ構いたがりなヒロにちょっかいを出されることが多く、それを煩わしい――実際は然程悪くは思っていないのも事実だが――と感じているのに、これで更に騒ぎ立てられるかと思うと辟易してしまう。
「……もし望むものを進呈してもらえるならば、『静かに過ごす時間』を俺にくれないか」
嫌気が刺す思いを隠そうともせずに呟けば、途端にシャロが噴き出していた。
暫し可笑しそうにくつくつと笑うシャロを尻目に、ハルは大きく溜息を吐く。――これが叶わぬ希望なのは重々承知の上の、ちょっとした愚痴の一つだった。
「いやあ、君らしいな。しかしながら、それは私が叶えるのは無理な要求だ。なにか他に無いのかい?」
「生憎余計な物を持たない主義なんだ」
「……旅を続けるには必要最低限な物を持つだけでいい――、とでも言いたいのかな? 持ち歩くと失ってしまった時に悲しいと?」
「俺がそんなタマに見えるか? 理由はあんたが言った前半部分だ。長旅をするのに不必要な物を持って歩けば、いざという時に邪魔になるだろ?」
武器となる弓一式・ナイフ・毛布代わりのマント・手拭い・ランプに油・食料や食器・水などなど。旅の必需品は意外と多く、かさばる物ばかりだ。ここに不必要だろう嗜好品の類が増えれば、それだけで重さに足が鈍る。
旅の最中で無法者に強襲され、立ち回りを迫られる場合もある。それ故に身軽さを重視し、『余計な物を持たない』という信念を持って旅を続けてきた。
そこまで説明すると、シャロは口元に手を押し当て「ふむ」と溢す。
シャロは群島諸国に定住する身の上で、旅に関しては本の中の出来事としてしか知らないと予測がつく。興味深げに傾聴を示す気付きの反応も頷ける――のだが、些か思っていた反応と違うような気がしなくもない。
そんなことをハルが感じていれば、シャロは手を下げ、窺い知れるようになった口元に弧を描いていた。
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