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冬の季節の直中、だけれども春間近を感じさせる頃――。
暦でいう二月十四日には、日ごろの感謝を込めて親しい人へ物を贈る風習があるらしい。贈り物の種類は様々であるが、“チョコレート”を贈るのが一般的なのだとか。
更に言えば『恋人が愛を祝う日』とされて、女性から男性へ親愛の情を込めてチョコレートを贈る――、という習慣が一部地域にあるそうだ。
「――この一部地域っていうのが、昶さんや亜耶さんの暮らしている世界なんだけどね。私たちの世界には無い風習だけど、こういう気持ちを気軽に伝えられる行事っていいなって思うわ」
このような習慣が無い故に、話に聞いて素敵な行事だと思った。さすがに異世界の文化は一味違う、というのが一番の感想だった。
花冠の少女が愉しげに語っていく中、対面の席に腰を下ろすイリエは興味深げに傾聴している。
と思えば、勝色の瞳が何かを察したと言いたげな空気を帯び、ふっと一笑を洩らした。
「ほう、ほうほうほう――。つまりは、だ。その行事に倣って、花冠のレディは俺に愛を伝えに来たということか」
「私からあなたへ気持ちを伝えたいと思ったのは事実ね。……でも、いい? あくまでも“親しい人”の方よ。“お・と・も・だ・ち”って意味だから、そこは変な早合点をしないでね?」
間髪入れずに釘を刺すも、「照れ隠しは不要だ、愛いやつめ」などと返される。
うん。予想はしていたけれど、勘違いと早とちりの天才っぷりは健在ね――、と思わず嘆息した。
今日は二月十四日。昶と亜耶の過ごす異世界――実際は昶が今より前に暮らしていた更に別の世界だ――では、『バレンタインデー』と呼ばれる日だ。
迫害下で殉職した聖職者に由来する記念日らしいのだが、何故に『恋人が愛を祝う日』なる祭事になったのかは解せない。
もとより異世界の宗教に関して、花冠の少女は無頓着で無関心。興味を抱いたのは、『日ごろの感謝を込めて親しい人へ物を贈る』という部分だけだった。
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