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自分の周りにいてくれる男性のみならず女性には、日ごろの感謝の気持ちとして贈り物を渡した。
あと世話になっているとして思い当たったのは――、過去の世界で見つけた新しい玩具ことイリエである。
そんなこんなで、イリエにも『いつも食事をご馳走してもらっているお礼』を持参し、“イリエ衆”の船――“イナグ・シレナ”の船長室へ空間転移を果たし、ベッドで横になっていたイリエの上に着地して今に至る。
イリエはイリエで無作法な襲来を受けたにも関わらず、花冠の少女へ飲み物の用意をしていたりと、憤っている様子もない。常時の態であった。
なんだかんだと以前に公言した通り、花冠の少女を歓迎しているらしい。
「それで、今日あなたに渡そうと思ったのは――」
言いながら花冠の少女は持ってきた紙袋をゴソゴソと漁る。そして次には小さめな箱をテーブルの上に置いていた。
「……なんだ、これは?」
イリエの勝色の瞳が映す箱は、掌よりやや大きく、赤い色が主体となった長方形である。
その赤い長方形の箱の中央には幾本もの細長い棒――、三分の二ほどが黒に近い茶色と、残り三分の一が焼き菓子のような淡い茶色の棒が。表面には古代文字だっただろうか、あまり馴染みの無い記号が大きく五個と、他にも細々と小さな記号が描かれていた。
「昶さんと亜耶さんの住んでいる世界の“ポッキー”って名前のお菓子よ。細長く焼いたビスケットをチョコレートで覆ったって感じね。――随分と前に食べたことがあるんだけど、凄く美味しかったわ」
これは花冠の少女が魔力の無駄使い――基、時空を自在に渡る術を用い、昶がかつて暮らしていた世界の“にほん”へ赴いて買ったもの。補足として、ちゃんと現地通貨を使用して購入した――が、通貨獲得の方法は内緒だ。
そもそも、花冠の少女が時間や世界さえ渡り歩けることをイリエは知らないし、花冠の少女も公にする気はないので、俗に言う『ツッコミ不在』な状況であった。
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