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「――いえ。丁重にお断りさせていただくわ」
「そうツレナイことを言いなさんなって。ちょいと付き合ってくれればいいから」
「そうそう。俺たちここに来たばかりなんだけど、地元民に声をかけづらくってな。嬢ちゃんは東の大陸の者だろ? 同郷のよしみってことで、土地勘が無くて困っている旅人を案内してほしいってだけだからさ?」
やましい気持ちは微塵もないから――、と。金色と栗色の髪をした、旅人風の井出達な男ふたりが尚も言葉を続けていく。
目は口ほどものを言うと例えられるけれど、下心が無いと抗弁しながら、男たちの目元には隠しきれない下卑た色が浮いている。
そうした浅ましい空気を聡く感じ取り、ビアンカは嘆息した。
ここは首都ユズリハ、その商業区画の外れ。そこをビアンカは一人、散策していた。
今日はヒロに急な呼び出しがあり、現在は城へ赴いている。
オヴェリア連邦艦隊に関わる招集なようで、幾らビアンカと謂えども内容についていけない。――もちろん無理矢理に参加して話を聞くこともできるのだが、そこまでして関わりすぎるのをビアンカは由としなかった。
そのため時間潰しも兼ね、首都ユズリハの城下街をふらふらとしていたのだ。
そうした中で不意と気安く声をかけられ、旅人だと思しき二人組の男に絡まれて今に至る。
事の経緯を思い返し、ビアンカは再三の溜息を吐いた。
「案内が必要なら埠頭の方へ行けば観光協会の建物があるから、そこでなら群島に詳しい案内係を斡旋してもらえるので。――それじゃあ、私はこれで……」
顔色と声音でにべもなく突っ撥ね、くるりと踵を返す。
立ち去りたいという心情を態度で以て示すのだが――、これは謂わば軟派だ。下心を抱いた相手が大人しく引くわけもなく、ビアンカは腕を掴まれていた。
「……離してもらっていいかしら」
「まあまあ、そんな怖い顔しないでさ。『困った時はお互い様』っていうし、ちょこっとだけ俺たちに付き合ってくれよ」
不機嫌を隠そうとせずに言えば、へらへらと笑顔で返される。片方の男も「そうそう」と嘲笑を含め同調してくる始末。
そもそも『困った時はお互い様』を謳うなら、今まさに自分は無遠慮に絡まれて困っている。これをお互い様として自重してほしいところだ――。
そんな風に考えつつ、ビアンカは口を開こうとした。
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