【それは、甘いお返し】

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 あっという間の出来事に呆気に取られ、そそくさと去っていく男たちを見送る。  そんなビアンカの耳に届くのは嘆息(たんそく)の音。それに反応して視線を溜息の(ぬし)に向ければ、同じく男ふたりを見つめる深い青の瞳が映った。  短い黒髪に青い目。確かにヒロと同じ色合いの持ち主だ。  背はヒロよりもやや高く、大人の男性特有の肩幅や背の広さを持つだろう。  それらの情報を見やりながら、「全然違うのになあ」という感想が心中に湧き上がってきた。  翡翠の瞳で見据えていれば、イリエは片手の大きめな紙袋を抱え直している。  どうやら買い出し中のようだが、その道すがらでビアンカが絡まれている現場に出くわし、助け舟を出してくれたようだった。 「あ、あの、追い払ってくれて、ありがとうございます」  思い至った事実に礼の言葉を口に出す。すると、当のイリエははたとした様子でビアンカへ勝色の瞳を向け、「おや?」と目で語る素振りを窺わせる。そうした反応にビアンカは思わず首を傾げてしまった。 「……花冠のレディかと思ったが、ビアンカ嬢だったのか」 「え? 花冠の……レディ……?」  聞こえた予想外な名称にきょとんとしてしまう。しかしながら、イリエはそれを意に介せず、勝色の視線でビアンカの髪や身体つきを上から下へ映し――、と思えば何か納得したのか「ふむ」と低く喉を鳴らした。 「――まあ、確かによくよく考えてみれば、花冠のレディが大人しく絡まれているとは思えないな。あの娘なら口も手も足も出ているに違いないだろうし、止めるにしても暴力を振るうレディを止めていた可能性もあったか」  ひとりで何かを想像してひとりで納得し、その内容にひとりでくつくつと笑っている。  そんなイリエの様子にビアンカは増々首を傾けつつ。もしかするとイリエは自分を花冠のレディ――(もとい)、花冠の少女だと思って声をかけてきたのかと思い当たった。  因みに、イリエは元々は花冠の少女を狙っていた立場だが、()の少女の性質を口にしている辺りから(かん)がえるに、自分の知らぬ内にイリエと花冠の少女の間に何やら接点があったらしい。
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