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「あ、あの……。あなた、花冠の女の子と、親しいんですか……?」
「知らぬ仲ではない、とだけ言っておこうか。時折と首都ユズリハで見かけるからな。あいつかとばかり思ったのだが――」
しかし、まあ。似ている気がするな――。イリエは続けていき、再びまじまじとビアンカを勝色の瞳で見やってくる。下心は一切感じさせないが、値踏みのような視線である。
イリエの視線に居心地の悪さを感じつつ、たじろぎつつ。なんとも意外な人物と花冠の少女が親しくなっていると思った。
そんなことを考えて翡翠の瞳でじっとイリエを見つめていれば、ふと気が付いたのはイリエの抱えている紙袋の中身だった。
日用品の買い出しでもしていたのかと頭の片隅に思っていたが、紙袋から僅かに顔を覗かせているのは菓子の類だったのだ。――それも女子供の好む、甘味の強いものや可愛らしい包装のものばかりである。
「その袋、随分と沢山のお菓子が入っているんですね。……もしかして、花冠の女の子にあげるつもりで、甘い物を買っていたんですか?」
居心地の悪さを払拭する意味も兼ね、好奇心が勝って問えば、イリエの勝色の瞳が瞬く。そして次には、ふっと一笑を洩らしていた。
「敬語で余所余所しくしなくて構わんよ。なにせ、ビアンカ嬢は英雄殿の伴侶だ。寧ろこちらが畏まらねばならぬ存在なのだからな」
「え。あ、ええ……?」
「バレンタインデーのお返しは三倍返し、が基本らしい。期待しているなどと言われ、応えなければ海の男の沽券に関わる」
「バレン、タイン……デー……?」
耳慣れない単語を聞いて再びビアンカは首を傾げた。
バレンタインデーとは何のことだろうか――。ビアンカが思ったことを口に出す前にイリエが言葉を継いだ。
「ふむ、知らないのか。彼の麗しいレディたち――、アキラとアヤの出身地に伝わる風習でな。女から男へ情愛を込めたチョコレートを贈り、募る想いを告げるための行事らしい」
なるほど、何故に知らなかったのか納得した。
イリエが口にした女性の名前――、昶と亜耶は異世界からの来訪者である。件の解せぬ単語も異世界の風習の一つなのだ。知らなくても仕方が無いものだった。
そして、そのバレンタインデーなる行事は、『女性から男性へ愛心を告げるための行事』とのこと。男女が恋仲になるのを計らう色恋行事なのだろう。
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