【そこに在ることの意味】

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「んとね、他はここにも――」 「ええええ、えっとっ! 腰の位置、腰骨にホクロがある場合は、器量が大きく物事に寛容だけれど、細かいところまで目配りできるリーダーに向いた傾向があります。仕事面では高い業績を残すことが多い――ですってっ!」  ヒロがボトムの留め金を緩める仕草を見せながら言い掛けるも、ビアンカが遮って早口に大衆雑誌を読み上げていく。どこのホクロを見せる気なのだと焦りが物語っており、そうした様子につい笑いが込み上げてきてしまった。 「そっかそっか。なんか面白そうだし、あとで僕にも読ませてよ」 「ええ、もちろんよ。私もね、自分のホクロの位置で調べてみたけど、なるほどねえって思っちゃった」 「ふむふむ、それも聞かせてほしいなあ。……ところでビアンカ。君さ、自分じゃ見えないところにホクロがあるって知ってる?」 「え、そうなの? どこにあるのかしら?」 「左耳の後ろの方。ここって鏡にも写らないし、自分じゃ絶対に気付かないよね」  紅い雫型のピアスが揺れる耳――、その左耳の裏側。耳朶(みみたぶ)と首の側面の境目辺りに小さなホクロがぽつりと存在する(いる)のだ。 「へえ……って、やだ。擽ったいからわざわざ触らなくっていいわよ」  ホクロのある箇所を教えるためと指先で耳裏を撫でると、ビアンカはこそばゆそうに首を竦めた。  ただ、触って示したくなるのも仕方が無いと思ってほしい。ここは合わせ鏡で見ようとしない限り、決して自分では見えない位置なのだし。そんなことを考えながら、ヒロは実に愉しそうである。  そして、耳朶(みみたぶ)と首の側面辺りにホクロがあると、何事にも積極的な性格となり社交的とされている。情に流されやすく、自制心が弱い面が見られることも多い。――と大衆雑誌には書かれていた。 「……ある意味で当たってるんじゃない?」 「そ、そうかしら……」 「うん。君ってなんだかんだ積極的で社交性あるし」 ――あと、情に流されやすい部分はある。自制心が弱いというのも、無法者に絡まれた際、すぐに手や足が出るのを考えればその通りだと思った。まあ思っただけで、そこは敢えて口にせずに濁したのだが。
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