【身体髪膚、これを父母に受く】

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「寝癖といえば、お兄ちゃんたちもしっかりした髪質で寝癖知らずよね。本当にみんな、あの人によく似たわ」  髪を整えてくれる手を止めず、しみじみと母が溢した。  わたしを含めた四兄妹、ツクモ兄さんもタモツ兄さんもジンも、父と同じ黒髪で硬毛なのだ。髪の毛に関して母の要素というものが全く見えない。  唯一、わたしとジンが母と似た(みどり)の瞳をしているが、それでも少し碧みかかった(みどり)なのである。母譲りの瞳だけれど、父の血が(わず)かに邪魔をしている。 「お父さんって自己主張が激しすぎ、自己顕示欲も強すぎ。それでもってお母さんは控えめすぎ」 「ふふふ、よく言われるわ。黒髪の子ばっかりで、お父さんの自己主張が凄いわねって。――でもね、お父さんはあなたたちが自分に似てくれたこと、凄く喜んでいるの。だからあまり無下にしないであげて」 「ぬー、無下にするつもりはないけど、お父さんにばっかり似ているのはなんか悔しい。お手入れが大変でも、やっぱりお母さんの髪に似たかった」  父のことは嫌いではない。他人に自慢できる誇れる人だと思っているし、父親似の部分を見出されるのも然程(さほど)悪い気もしない。  だけど、わたしの憧れは母なのだ。母みたいな穏やかで可愛らしい女性になりたくて、だから母みたいな髪になりたくて、でも母のような髪になることはできなくて、あくまでも憧れにしかできなくて。  持って生まれたもので、変えようがなく仕方のないことだと理解はしている。でも、頭では分かっていても、胸の内がもやもやとして息苦しい。ぐるぐると心が荒波の渦潮みたいに渦巻いて思考がまとまらない。  父を(けな)したいわけでも、母を困らせたいわけでもないのに。ずっと変な風にこだわって、ぐちゃぐちゃとした感情が自分の中を占めている気がした。
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