【身体髪膚、これを父母に受く】

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「はい、終わったわよ。お疲れさま」  色々と考え込んでいるうちに、髪もいつもの髪型に整え終わっていた。両サイドを三つ編みに結って輪っかにした、ドーナツヘアのお決まりヘアスタイルだ。 「ん。ありがと」  三つ編みの部分に触れれば、ぽこぽことしっかりした手触りが指先に伝わる。三つ編みにしてもらうのも、ほどいた時にゆるゆるとした(うね)ができるのを期待してのこと。だけど、この頑固な硬毛は(うね)すら残さない。  体ごと母の方へ向き直ると、亜麻色の色彩が視界に飛び込んでくる。昔は結い上げてポニーテールにしていたらしいのだけど、今はふんわり緩く三つ編みに結ったおさげで、見ただけでわたしと髪質が違うのが分かった。  そんな母は穏やかで優しい笑顔を向けてくれる。――というか、いつもにこにこ悩みが無いのではと思うほど朗らかで、普段と大して変わりは無いのだけど。 「お母さんみたいな髪になれないのかな……」  髪を触りつつ、思ったことが口に出た。すると、母は一瞬きょとんと瞳を瞬かせ、またくすりと笑った。 「ユイがもう少しお姉さんになって大人になったら、もしかしたら髪質は変わるかもしれないわね。年齢を重ねると変化があるっていうし、なにせお母さんの血も引いているんだし」 「そうかなあ。お父さんの性格を思うと、ずっと主張して付きまといそう」  そんなことを言うと、母は眉を落としてくすくす笑う。言い返しもせず困ったように笑うだけなのを見て思うに、父の性質を一番よく分かっている母も否定できないみたい。  父の自己主張力は母の知るところ。長年連れ添っている母すら否定できないのなら、ある意味の確定事項なんじゃないだろうか。――そんな父が相手じゃ母も苦労するよね。 「ただいま、戻ったよ」 「ただいまー!」  不意に玄関先から聞こえる声と、ガチャガチャとした武器を置く音。港の巡回に出ていた父とジン――わたしと一歳違いの兄である――が帰ってきた。  余談として。上の兄ふたり、ツクモ兄さんとタモツ兄さんは少し前にお嫁さんを貰って独立していて、この家はわたしとジン、父と母の四人暮らしなのだ。 「おかえりなさい。今日も何も無かったみたいで良かったわ、お疲れさまでした」 「うん、漁師連中が喧嘩してて朝から元気だねえって思ったくらいかな。ここの港町はほんと平和なもんだよ」  出迎えに立った母が父とジンを労うのを傍目(はため)に、胡乱(うろん)に父を見据える。  父の前下がり気味に切られた短い黒髪は硬質さが窺い知れ、自分の髪質と一致する。やはりわたしの中は父の血が濃く、母の血は鳴りを潜めていると改めて実感してしまった。
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