【四月九日】

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 亜麻色の髪に翡翠の瞳をした愛しい少女(ヒト)を思い浮かべる。  ぱらりと捲る大衆紙の文章に目を通し、どれもこれも当て嵌まると感心してしまう。  背筋を伸ばし腕を伸ばして猫背になっていた背を引き上げ、黒髪に紺碧の瞳を有する青年――、ヒロはふっと息を吐き出した。  何故(なにゆえ)に苦手としている読み物に手を付けているかというと、来たる“四月九日”はビアンカの誕生日。だので、四月九日に関する誕生花から誕生石、この日生まれのヒトの特徴とやらを大衆紙諸々に目を通して調べてみている。  読んでいる内に「当たっている」として、ついつい頬も緩んでしまった。  話をしていて不意と出た話題が「誕生日」に関すること。――ヒロ自身が夏生まれだと主張をしたくて話頭に出したのもあるが、そうした中でビアンカは春先の生まれなのだと話をしてくれた。  ビアンカの誕生日には良い想い出と悪い想い出が入り混じる、実に複雑なものだった。  十五歳までの年頃の少女らしい綺麗で愛らしい想い出と、十五歳の少女らしからぬ悲しくも辛く苦しい想い出と。  特に十五の誕生日がハルの命日となり、故郷を失くした日になったと語られた際には、ヒロはかける言葉を失ったほど――。  それからは誕生日を祝ってくれる者もおらず、ビアンカは孤独な旅を続けていたという。寧ろ彼女のことなので、誕生日というものさえ意識せず忘れていただろう。 「……せっかくだから、良い想い出の一つでも作ってあげられるといいよなあ。焼き菓子を作って、なんか買ってあげて――」  綺麗な想い出から辛い想い出に塗り替わってしまっている誕生日。それ故に忘却してしまおうと考えていたのだろう誕生日。  そうした嫌な思いを払拭させるような出来事を自分が作ってやりたい。さように考え、ヒロは独り言ちて頭を捻る。  しかしながら――、沈思黙考してみても、ビアンカが喜びそうな物が思い浮かばないのも事実。  今まで女性に贈り物をすることは多々あれど、付き合い上でばかりだ。このように本命に何か贈り物をする機会など無かったのも事実。
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