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「うーん、あの子ってば物欲が乏しいからなあ。なにか欲しいとか言っているの、聞いたこと無いや」
ビアンカの旅の荷物も必要最低限な物のみ。唯一、趣味で嗜む刺繍道具を持っているが、その道具が欲しいと口にすることも無く気が付くと自らで買い足している。
オヴェリア群島連邦共和国に訪れてからも様々な店を連れ歩く機会があったが、その際も何か物欲しげにしている様子も見られない。――見るのは好きそうだが、買うことに結びつかないようなのだ。
言うなればビアンカは所有欲・購買意欲が殆ど無いのである。女性としてこれは如何なものなのだろうか、などと男であるヒロが心配してしまうほどだった。
「香水は前に買ってあげちゃったし、何をあげれば喜んでくれるかなあ。――指輪、指輪。うーん、ちょっとこれは気が早いかな。でも、左手の薬指にしてくれたら、僕が凄く嬉しいんだけどなあ」
ついと妄想をしてへらりと頬が緩む。指輪にするのならば、石は何が良いだろうか。やはり誕生石の桜石か、それともピアスと揃いで血赤珊瑚にするか――。
「はっ! いやいや、指輪で決定しているのもアレか。でもでも、どうしよう……」
なるべく早い内に決めてしまわねば。四月九日はすぐなのだ。
準備諸々と色々したいこともあるのだから。
そんなことを悩みつつ、だけれど何処か楽しげに考えつつ。
今日も今日とて平穏な日が過ぎていくのだった。
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