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空は清々しく晴れ渡っていた。ハインリヒは跪いて、処刑台に首を乗せた。
処刑人はハインリヒのかつての配下だった。処刑人が声をかけた。その声音はかすかに揺らいでいた。
「殿下、最後にお言葉はございませんか」
ゆっくりと、ハインリヒは目を瞑った。そして、風に嘯くように言った。
「私からあなたへ」
処刑場に一瞬の煌めきが走った。直後、何かが転がる鈍い音が響き渡った。処刑人は血に塗れた長剣を投げ出すと、震える手で額の汗を拭った。
その時、どこかから一匹の蝶が処刑場に舞い込んで来た。小鳥のように大きな蝶だった。
鮮やかな紫色の羽に黄金の鱗粉を纏った蝶は、その場を踊るように一周した後、ふわりと羽ばたいて、ぐんと高度を上げた。
大気の流れを捉えた蝶は、青い空の彼方へ、どこまでも遠くその先へ、ひらひらと飛んでいった。
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