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帝国が無条件降伏をしてから、二ヶ月が経った。護郎は祖国に向かう輸送船の甲板の上で、一人静かに風に吹かれていた。
首からは小さな袋を提げている。紫の絹の袋。イヨの父の遺骨が入った、イヨのお守り。
イヨの予言のとおり、敵は彼を殺さなかった。死体の傍で、声も上げずにただ泣いているだけの男を見つけた敵の兵士は、咄嗟に向けた銃を下ろすと、彼の肩に手を置いて、煙草を一本差し出した。それは守備隊が玉砕してからちょうど四か月が経った日の朝だった。
収容されると、彼は軍医の診察を受けた。彼の頭には、手榴弾の破片が刺さっており、先端が脳の一部にまで達していた。普通ならば即死していてもおかしくない。軍医は、彼の強靭な生命力に驚嘆していた。
護郎にはもう一つ、首から提げているものがあった。敵の補給物品を詰める木箱を改造して作った、小さな箱。その中には、骨が入っている。
イヨの骨だ。
捕らえられた際の異常な様子とは裏腹に、収容所での護郎の態度は従順そのものだった。彼は作業を通じて敵兵と交流を深め、ついにある一つの願いを聞いてもらうことができた。
ガラパンの街に行って、イヨの骨を回収したい。
戦争が終わるまではその願いが聞き届けられることはなかったが、帝国が降伏したその次の日に、彼は外出を許可された。彼は街に行くと、イヨの死体があった場所まで行った。あの時から更に時間が経ったせいで、死体は風化してしまったのか、ほとんど残っていなかったが、辛うじて右手の骨だけが残っていた。お守りを握り締めていた、あの右手が。まるで、彼が来るのを待っていたかのように、右手はまだそこにあった。
護郎は木箱を撫でながら、思った。イヨ姉さんはこうして、父親の骨と一緒に祖国に帰ることができる。彼女は自分の遺骨を回収してくれとは一言も言わなかった。最後まで、俺が助かることだけを考えてくれていた。
密林を彷徨っていた時に、いつも一緒にいてくれたイヨ姉さん。あれは結局、イヨ姉さんの幽霊だったのだろうか。それとも、損傷した脳が生み出した幻覚だったのだろうか。あるいは……いや、そのようなことはどうでも良いのかもしれない。護郎がイヨによって守られたのは、間違いのない事実なのだから。
きっと、イヨ姉さんの魂が、俺を守ってくれたのだろう。
彼は船尾の方へ視線をやった。すでにススペ島は水平線の向こうへと姿を消している。
「もう一度、あの島へ行こう。あの島へ行って、また骨を拾おう」
そう呟くと、護郎は階段を下って、船内へと姿を消した。
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