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「ありがとうございます……」
「ねぇねぇ、ソウも一緒に食べようよ。ここのケーキ、すっごく美味しいよ!」
余程ケーキが美味しいのか、興奮気味の水月に呼ばれて、颯真は振り返る。
「車に積んでおこうか?」と申し出てくれた男性社員に、「お願いします……」と颯真は車の鍵と、ファンレターが入った紙袋も預ける。
そうして、目を輝かせる水月と、そんな水月をクスクスと微笑ましく見つめる女性社員たちの輪に向かったのだった。
「ケーキ、すっごく美味しかったね」
帰りの車の中で、助手席の水月は興奮さめやらね様子で話しかけてくる。
「そうだね……」
ハンドルを握る颯真は至って面白くなかった。
先輩にも、スタッフにも、果てはケーキにまで水月を取られてしまったような気がした。
(ますます、自信が無くなってきた……)
路肩ではサンタクロースの格好をした男性が売り子をしていた。
その反対側には、腕を組んで歩くカップルの姿まで。
今日は水月の誕生日であると同時に、クリスマスイブでもあったと思い出す。
「そういえば、ファンからプレゼントが届いているんだよね。ソウ君が預かって、車に積んだって聞いたんだけど……」
「ああ、後部座席の段ボール箱がそうだよ」
後部座席には、二人の鞄とファンレター以外にも、男性社員が積んでくれた「茂庭光」宛ての誕生日プレゼントが入った段ボール箱が鎮座していた。
後ろを確認した水月は、「こんなにたくさん届いたの!?」と素っ頓狂な声を上げた。
「何が入っているんだろう。楽しみだね」
「うん。そうだね……」
(どうしよう。ファンにも負けそうだ)
輝くばかりに喜ぶ水月と、どんよりと落ち込む颯真。
そんなアンバランスのまま、二人は帰宅したのだった。
二人の鞄とファンレターが入った紙袋を持った水月が、玄関を開けてくれる。
両手で段ボール箱を抱えた颯真は靴を脱ぐと、そのまま水月の部屋に運んだのだった。
「ありがとう。ソウ君」
女子らしい家具が一切ない、夕陽が差し込む水月の部屋の入り口に段ボール箱を置くと、「別にいいよ」と素っ気なく返す。
「じゃあ、俺も荷物を置いて、着替えてくるから」
鞄と颯真宛てのファンレターが入った紙袋を預かると、そのまま部屋を出ようとする、
「ちょっと待って!」
水月に声を掛けられて、その場で足を止めたのだった。
「どうしたの?」
「実は、ソウ君に渡したいものがあるの」
ベッドの上に、自分の鞄と「茂庭光」宛てのファンレターが入った紙袋を置いて、水月は机に向かう。
机の鍵を解除して、引き出しを開けると、小さな袋を取り出す。
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