前書き

1/1
前へ
/23ページ
次へ

前書き

夕焼けを見る時や星空を見上げて自分のちっぽけさを感じる時,泣き疲れて眠った後の出勤日の朝や四面楚歌な状態で周りに反対されながら踏ん張らないといけない時,単調で不甲斐ない日々に意味を見出そうとして挫けそうになる時,心を支え、前へと突き進む力を与えるものがある。 それは人の愛情なのかもしれないし,自己肯定感なのかもしれないし,その人の貫き通そうと決めている信念や意志から来る力なのかもしれない。でも,その精神を下支えする力は、そういったものよりさらに深くて、幼い頃に無意識に形成されていくものだと,私は思う。その人の記憶なのだと。 記憶といっても,はっきりと思い出すものではなく,諦めようと投げやりになった時におぼろげに脳裏をかすめるような,何かの面影のような,ささやかなものだ。でも,常に心の奥底で強かに息づいていて,他にすがるものがなくなった時に突如浮上し,生きよう!、と背中を押してくれる力だ。 意識するかどうかはともかく,全ての人の心には、こういういざという時に力になる記憶は眠っていると思う。幼い頃に誰かに見せられた愛情や親切心なのかもしれないし,自分が一つの尊い命としてこの世界に誕生した、物心がつく前の記憶なのかもしれない。人によっては違うかもしれない。そして,その心の声が聞こえなくなっている,聞こえたことがないという人もいるのかもしれない。 でも,私には聞こえる。どん底に陥ってやるせない気持ちで胸がいっぱいになった時や途方にくれて彷徨いに彷徨った挙句立ち往生してしまった時など,普段はその存在にすら気づかない細やかながら強くて揺るぎない力が、心底から湧き上がり生きよう!と私をどん底から這い上がらせる。私はこの心の声に感謝している。そして,エネルギー不足になった時に私に力をくれる記憶に眠る大事な人にも感謝している。 本書では,困り果て希望を見失いそうになった時に力と元気を与え,生きよう!と度々念を押してくれた記憶を綴りたいと思う。幼い頃の思い出なので,もはや完璧な記憶ではなく,断片的でおぼろげになっているところが多い。でも,何らかの形で思い出さない日はない。それだけに,私にとって大切な思い出なんだろうと思う。記憶の断片みたいなものなので「記憶のかけら」と呼ぶことにする。 これはその話に登場する人への感謝の手紙として残しときたい。届けられない手紙だけれど…私の心の中では永遠であると同様に,紙上でも永久に命を絶やさずに生き生きと愛情の象徴として輝いてくれることを願う。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加