30人が本棚に入れています
本棚に追加
静寂を破り電話のベルが鳴りだした。
いつまでも鳴り響く音に自分が嘲笑われているように感じた純一は、一層苛立っていた。
そのうるさい音を消すために彼は受話器を取った。
「おー、春日か?」
固定電話への着信なんてどうせセールスだろう。そう思っていた純一は、その声を聞き、心の中の何かが落下していくのを感じた
せっかく気に障る音を消したというのに、今度は受話器から発せられる賑やかな声で、春日純一は心を乱される。
純一は、自分が惨めになるのが嫌で、電話を切ろうとした。
「俺だ、小金持 健だ。久しぶりにお前の声を聞きたくなって。」
電話を切ろうと受話器を耳から離したのに聞こえるほど大きな声。
「純一、新聞見た? 健ちゃん、今は一流企業の社長さんだって、すごいね。」という母の声が頭の中に蘇る。
純一は、自分の今の境遇を重ねて、ため息をついた。
「どうしたんだ。なんか声が暗いぞ。」
最初のコメントを投稿しよう!