30人が本棚に入れています
本棚に追加
田舎の小さな会社をリストラされた人間に重役の席を与えるなんて、町内のカラオケ大会で入賞できなかった人間に、武道館で歌ってみないかと言っているようなものだ。
純一は、盛大にからかわれている自分を惨めに思った。早く電話を切っておけばよかった・・・そんなことを考えている純一の耳に思わぬ言葉が流れてくる。
「冗談じゃないよ。月給百万円、田舎から都会に出てくるのも大変だろうから、月に1週間だけ東京に出てきて働いてくれたらいい。
もちろん、飛行機代、ホテル代もこちら持ちだ。」
内容は、嘘っぽいが、喋り方は、いつものふざけた感じではなく、誠実に語りかけてくれている。これは、健の本気で真面目な時の声だ。
「ありがとう。本当にありがとう。」
純一は、降って湧いてきた幸運を素直に喜んだ。
もし、相手が幼馴染の健じゃなかったら、純一も本気で考えなかったはずだ。
宝くじや目上の死などで偶然に手にした財産や地位など、その人の器に持て余す幸運はすべて破滅の種だという事は、淳一のように堅実に生きてきた人間にとって常識だ。
妻の麻由に重役抜擢のことを伝えた。
「あら、あなた、良かったわね。
最初のコメントを投稿しよう!