ただいま

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ただいま

 草木の匂い、心地良い風、白い石造物の遺跡が変わらずに私の目に映る。 (ただいま。)  日本と、オルトリアスの時間的な時差は全くないけど、季節を比べると約2ヶ月くらい日本の方が早くなっていて、異世界のこっちの季節は10月前後。3ヶ月前の夏季と比べると暑さが消えている。  モカは私の傍を離れないようにパタパタと飛んで付いてくる。気兼ね無く飛べることが嬉しそうに見えた。  遺跡を抜け、湖の畔にある丸太のロッジ風の一軒の家に私達は向かうと、出迎えるようにロレンおじさんとおばさんが家の外で待っていた。 「お帰りなさい。シェラ様に、なおちゃん。」 「ただいま、おじさん。おばさん。」 「わたしは今から城に行って馬車の手配をして来るから、迎えまでの間、なおを頼んでもいいかい。」  おじさんは扉を開けて、笑顔を向ける。 「はい。もちろん大丈夫です。なおちゃん、さあ、どうぞ入って。」  私は、手土産の和菓子を早く渡したいと馳せる気持ちを抑えながら、おじさん宅に入る。  3ヶ月前が昨日の事のように感じる、変わらない家の匂いと笑顔のおじさんとおばさん。  おばさんの出してくれたお茶の香りも鮮明に思い出す。 「遠慮なんてしなくていいいからね。自分の家のように過ごしてね。」  お茶を一口飲んで、「はい。」と私は答える。 「それじゃあ、今から焼き菓子を作るから持って行ってくれるかい。」 「はい。」  ティオが大好きって言っていた、おばさんの焼き菓子。断る理由なんてなかった。  私はカバンから羊羹・煎餅・饅頭と緑茶の葉を取り出して、台所のおばさんの所に持っていく。 「これ、向こうで住んでいる国のお菓子とお茶なの。味が合うか判らないけど、おじさんと二人で食べてみてください。」  「ありがとね。」  私はリビングに戻り、おじさんにティオ達が修行に来ていた時の話をしてもらったり、窓の外をモカと眺めたりしながら時間を過ごしていく。  香ばしいお菓子の香りがリビングまで広がり、私とモカは匂いに釣られて台所に顔を出す。 「おばさん、持って行く前に、ちょっとだけ味見する分とか…」  丁度、焼きたてのクッキーをザッと入れた皿を私に見せて、 「もちろん、あるわよ。これをテーブルに持っていってくれるかい。私は残りを袋に詰めるから。」  私は「はいっ!」と、嬉しい声を上げて、 「それじゃあ、私がお茶の準備を手伝いますね。」  私はリビングに戻り、テーブルにあったポットを台所に戻しておばさんの指示を聞きながら新しいお茶を準備する。
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