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「ん? そうか。急がなくていいぞ、俺のことは気にせず準備してくれれば良い。」
私は笑みを返して「はい。」と返事をして、モカと一緒に台所に向かった。
台所で私はゆっくりと深呼吸をして、眠気を覚ますために伸びをする。
「どうしたの? なおちゃん。」
不安な表情で私を心配するロレンおばさんに、
「えっと、おじさんと伯父様の会話が楽しそうだったので、もう少し続けて欲しいかなって。」
「なおちゃん、ありがとね。」
リビングから聞こえてくる楽しげな声に、おばさんも嬉しさを見せていた。
台所でお茶を頂いた私は、クッキーの袋を持ってリビングに戻る。
「お待たせしました。このクッキーをカバンに入れたら、行けます。」
「そうか。じゃあ、外に出るか。ロレンまたな。」
私はキャリーケースとカバンを持って、おばさんが開けてくれた扉から外に出る。
外に出ると、イガル伯父様が私の荷物を全部受け取って、馬車の中に入れてくれた。
「おじさん、おばさん。ありがとう~、行ってきますね。」
見送るロレン夫妻に手を振り、馬車はオルトリアスに向かって走りだした。
馬車の中、対面の席には、少し窮屈そうにみえる伯父様が座っている。
モカは私の膝の上でいつものように寝ている。
私は、話題を一生懸命考えていた。
「ロレンおじさんは、すごく強かったんですよね?」
伯父様は目を瞑り、嬉しそうに語りだす。
「ああ、強かった。剣の腕だけでも、当時の遠征隊の中でも1か2番ぐらいに強かった。それに加えて、火・水・風・地の初期魔法をほぼ独学で覚えるほどの、貪欲で真面目で、負けず嫌いで、よくわしと喧嘩になったものだ。」
私は温厚なロレンおじさんからは想像できなくて、少し驚いた。
「剣技を極めてこそ最強の騎士。どんな状況でも守る事が出来る騎士こそ最強。って二人で言い争っていたよ。まあ、お互いで相手を認め合っていたからな。」
伯父様の顔が少し悲しげな目になっていた。
「ロレンが遠征隊で守備隊長をしていた時、特級クラスの魔獣が現れてな、砦から逃げ遅れた仲間を守る為に先陣きって戦って、大怪我して…わしが間に合ってればと、今でも悔やむ。」
伯父様は顔を上げて、
「だけどな、あやつは守り切った。信念を貫いた最強の騎士だと、わしは尊敬している。」
私は窓の外の、美しい景色を改めて見る。
「この景色は、そうやって守られている景色なんですね。」
「ああ、そうだとも。過去から続く、沢山の戦士達が守っている世界だ。これからもな。」
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