第1話 あたしの特異なことってなに?

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 あたし今きっと、急にどんぐりが頭に落ちてきたリスと同じ顔してる。しかもクヌギの大きなどんぐり。どうして思考回路ばれちゃったんだろ。 「あのね、ひかりん。ひかりんは思っていることを思っているだけと思っているのか知らないけれど、あなたが思っていることを私が全部知っているのはあなたの口がその頭の中の出来事を全部口走ってしまっているからよ。デュパンも言ってたけれど、どんなに想像に難いよう見えてもそれがそうであるという前提によって示されているなら確実なものなのよ」  すっかり回想にふけっていたけれど、今あたしは、ユーラシアひかりんのコスプレをして神有月(かみありつき)邸で霊華ちゃんに古典芸能の教えを受けているのだった。  霊華ちゃんのおかげで日本史の成績が向上したことに味をしめたお父さんが、他の科目も同じように成績を上げないと景気の変動で円高が進んだ状態でスイスフランで小遣いを渡す、なんて言うからあたしは週に二日、神有月邸にお邪魔している。  霊華ちゃんへの家庭教師代はあたしのコスプレ姿なんだけど、日本史の時はひかりんの正装のフリフリのドレス。  古典の時はパラレルノースアメリカモードっていうデニムのカバーオールにだぼだぼの白シャツ。それから脇差の代わりみたいに熊手を提げて、ところどころほつれたストローハットをかぶってる。  行ったことないけど「テキサスの故郷が恋しいぜ」って言ってみたら、霊華ちゃんはよだれと鼻血を同時に垂らしてた。 「で、そのヴェネチアングラスなんだけれど、こないだの話と関係があるわね、きっと」  ボルゾイとかいう雨降りの街みたいな種類の犬を霊華ちゃんは撫でている。足の長くて毛艶の良いボルゾイ犬を霊華ちゃんが、ジュネーブって呼ぶとボルゾイ犬は耳をクリっと動かした。 「こないだの話って特異なこと?」 「そう特異なこと」 「ねぇ霊華ちゃん、あたしの特異なことってなに?」
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