提央祭

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提央祭

 日本で一番治安が悪い町、提央町(ていおうちょう)。 この町には不良、チンピラが集まり、ほぼ毎日ケンカが起きる。 ()()になるためにケンカをする。それが不良である。 ―――  暗く、ジメジメしている工場。 人はめったに来ない場所。 そこでケンカが起こっていた。 ケンカというよりは、リンチの方が正しいかもしれない。 1人の男を何人もの男たちが囲み、一斉に襲い掛かる。 囲っている男たちは金属バットや鉄パイプを振り回す。当たったらタダでは済まない。 それに対して、囲まれている1人の男は武器など何も持っておらず。 普通に考えればリンチでボコボコにされる。 しかし、この1人の男は相手が何人いようと武器があろうと関係なく、 全員フルボッコにして圧勝完勝。 圧倒的に不利な状況をものともせず、涼しい顔して勝ってみせた。 「なんだ?もう終わりか?」 左目が隠れるほどの前髪を揺らし、余裕の表情をする男。 強さの格が違う。そう言わんばかりだ。 「いや~、さすがですね南場さん」 ケンカが終わって程なくして物陰から現れた眼鏡の男。 その眼鏡は一部始終を見てたらしく、拍手をしていた。 「相変わらずの強さ…! まさに最強という言葉にふさわしい…! 今回の提央祭もあなたが優勝でほぼ決まりですかね」 「…フン。()()優勝? 絶対優勝の間違いだろ?」 眼鏡の男が褒めるが、片目が隠れた男は当然のように吐き捨てた。 提央祭(ていおうさい)。 それはこの町で毎月行われている祭りである。 だがしかしこの提央祭は祭りと呼ぶにはあまりにも バイオレンスである。 提央祭の正体は至ってシンプル。 提央町に住む不良たちが戦うバトルロイヤル。 不良に限らずこの提央町に住む人間なら誰でも参加できる。 反則も武器の使用も認められている。 殺しさえしなければなんでもあり! とにかく相手と戦い倒すこと! これだけが絶対のルールだ。 参加者を全員倒し最後まで立っていられた者が優勝となる。 優勝した者は次の提央祭が開催されるまでの1ヶ月間「()」になることができる。 王の命令は絶対。 提央町に住む者は王に逆らうことはできない。 王は何をやっても許される。 この町は王がルールである! ―――そして、左目が隠れた前髪をした彼こそが提央祭の絶対王者である。 「ブラックドラゴンズ」という名の不良グループのリーダー、 南場(なんば)流星(りゅうせい)だ。 18歳、高校3年生。 提央町唯一の高等学校、提央高校の生徒。 南場は今まで出場したすべての提央祭で優勝している。 出場回数49回、49連覇達成。 49ヶ月連続で提央町の王の座をキープしている。 南場に倒された連中は、動けないながらも意識を取り戻した。 「ちっ…ちくしょう…オレも1回くらい王になりてーのに…」 「ああ…頭に来るよな…」 強すぎだろあの野郎…バケモノだ… 負け犬となった彼らはそう思うしかなかった。 「さあ今月の提央祭開催日は4月10日です! 場所は馬頭公園!時間は16時! 参加したい方は場所と時間のお間違いのないようにお願いします」 そう言ったのは眼鏡の男。 この眼鏡男の正体は提央祭運営委員会会長。 名は菅原(すがわら)健人(けんと)。 提央祭最高責任者、この提央町を支える影の存在。 17歳、高校2年生。 こちらも提央高校の生徒だ。 菅原から告知された提央祭の予定を聞いた南場は、余裕の笑みを浮かべた。 月に1回行われる提央祭。血と欲望に塗れた祭典が、今月もやってくる。
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