二つの足あと

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 その日の放課後、ずっと好きだった相手に騙された。  彼女の名前は沙耶といって、中学の頃から同じ学校に通う女の子だった。  家が近い事もあって、タイミングが重なってばったり出くわしたりした時には一緒に登下校もする仲だった。学校でもよく喋ったし、沙耶の方から話しかけてくる事も多かった。沙耶とは不思議と波長が合って、いつもお互いに笑ってばかりいた。  きっと沙耶もまんざらではないのだろうから、いつか折を見て気持ちを伝えようと思っていた矢先、二人きりで話がしたいと沙耶の方から呼び出されたのが今日の放課後。  のこのこと出向いた体育館裏で告白され、夢のような気持ちで受け入れた途端、物陰から歓声をあげてクラスメートたちが飛び出してきた。  ドッキリ成功!  彼らは地面の上を文字通り腹を抱えて笑い転げながら、沙耶の迫真の演技を称賛し、騙された僕の単純さや浅はかさ、身の程知らずぶりをなじった。 「馬っ鹿じゃねえの! 沙耶がお前なんか好きになるはずねえじゃん!」 「普通気づくよな! どんだけ自意識過剰なんだよ!」 「引くし! 普通に引く! マジドン引き!」  羞恥に震える僕に対し、「キモい」と吐き捨てた沙耶の一言がクラスメートたちをさらなる爆笑の渦に誘った。  その瞬間、沙耶に対する想いとともに、僕のちっぽけな自尊心は粉々に崩れ去ったんだ。  逃げるように学校を飛び出した僕は、そのまま家にも帰らずふらふらとあてもなく彷徨い続けた。  町中が闇に包まれてから長い時間が経った頃、たどり着いたいつもの砂浜で僕の頭に浮かんだのは……もう学校になんて行きたくないという想いと、目の前の海で溺れてしまえば沙耶の事も、今日あった出来事も、明日からの事も何も考えずに済むのかな、という漠然とした想いだった。
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