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「良かったじゃないですか」
話を聞き終えた彼女は、にっこりと笑った。
「え?」
「その子が最低な女だってわかって。これ以上不毛な恋をせずに済むじゃないですか」
けろりと言ってのける彼女に、思わず絶句する。僕が受けた仕打ちは控え目に言ってもかなり卑劣なものだと思うのだけど、それで良かっただなんて。
「すごく欲しかったおもちゃが、買ってみたらつまらなくてがっかりっていう経験ありませんか? こんな物にお金出すんじゃなかったって。それと一緒ですよ。後悔しないで済んで良かったじゃないですか。その分他のもっと素敵なおもちゃで遊べるんですよ? ほら、胸に手を当てて考えてみて下さい。その子の事、まだ好きですか? もう好きでもなんでもないんじゃないですか?」
狐につままれたような気分で、自分の胸に手を当ててみる。
確かに沙耶の顔を思い出したところで、こみ上げてくるのは苦々しい思いばかりだった。
まさかあんな事をするヤツだとは思わなかった。
今まで僕と一緒に学校に行ったり、笑いながら喋っている間も心の中では「キモい」と思い続けていたのかと想像すると、吐き気すら催してくる。
出来る事ならば顔も思い出したくないし、金輪際関わりたくもない。
どうしてあんなヤツにドキドキしていたんだろうと、今となっては悔やまれる始末だ。
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