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「どうでもいい相手に何されたって、何言われたってどうでもいいじゃないですか。そんな事でくよくよするぐらいなら、そういう最低な女に恋をしていた自分の見る目のなさを責めた方がマシですよ」
それに対し、目の前で励ましてくれる彼女の明るい笑顔に晒されていると、なんだか心の中までポカポカと温かくなってくるような気がした。
少しずつ胸のつかえが取れてくるのと反比例して、疑問が膨らんでくる。
そもそも目の前の彼女は、誰なんだろう?
この辺に住んでいるにしては、今まで見た事もないが。
「私……知りませんか?」
いたずらっ子のように笑い、彼女は言った。
「私はあなたを知っています。よくこの浜辺に来てますよね?」
「どうしてそれを……?」
「私の家もこの近くなので。それにいつも、悲しい顔をして座っているから……」
羞恥に襲われる。
兄弟喧嘩や親に怒られた時、テストで悪い点を採った時、試合で負けた時……何かあった時にここへやってくるのは幼い頃からの癖のようなものだった。
ぼーっと海を眺めていると、胸の中で渦巻くもやもやした想いが少しずつ解れていくような気がした。
けどまさか、他の誰かに見られていただなんて。
「私、ずっと見てたんですよ。あなたの事。今までずっと気づいてもらえなかったけど」
彼女が伸ばした手が、僕の手の甲に重なる。ずっと風にさらされていたせいか、冷たさが心地よく感じた。
「キミは……」
「ただ見ていただけじゃありません」
戸惑う僕に、彼女は言葉を継いだ。
「ずっと待ってたんですよ、私。気づいて貰えるのを。私を見てくれる日が来るのを」
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