彼の言葉で紡がれる記憶

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彼の言葉で紡がれる記憶

 ケーキを食べて回り、ついでに洋服も見て回る。 「お嬢様?」 「ちょっと待って」  充実した自由時間に酔いしれていたティアラは、今まで気にも止めなかった店に目を引かれた。  光を失った瞳の人々が佇む店。  それはアンドロイドの販売店だった。年齢も姿も様々な、人形と化したアンドロイドが並んでいる。  ティアラは誘われるようにドアをくぐっていた。 「いらっしゃいませ、ご希望の品はお決まりですか?」  気の良さそうなおじさん店主がさりげない感じで声をかけてくる。 「フレンドリーシリーズは・・・」  すぐに売れてしまうからと言いながら、店主は2体をティアラに見せた。  1体は紳士風の執事、もう1体はティアラと同じ年頃の少年アンドロイド。 「ここに入っているデータを知りたいんだけど」  そう言ってティアラは手の中の蝶ネクタイを見せた。 「それは執事の個人データですね。どちらでも引き出せますけど、買っていただかないとデータ削除に手間がかかるものですから・・・・・・」  店主は困り顔をしつつ笑顔を崩さない。 「こちらの友達アンドロイドでしたらお安くなっていますよ」  他のアンドロイドより値は張るものの、ティアラに買えない値段ではなかった。  少し躊躇したけれど、甘いものを食べ洋服を沢山買った勢いが心を動かして即決する。 「友達アンドロイドを」  細かい事はすべて執事に任せてティアラは意気揚々と帰途についた。  夕食を終えて自室へ戻ると少年アンドロイドはティアラの部屋で静かに椅子に座っていた。 「夕食、美味しく食べられた?」  栗色の髪の少年がティアラへ親しげに話かけてくる。緑色の瞳が優しく輝いていた。 「あの・・・」 「なに?」 「早速で悪いんだけど、これ」  ティアラの差し出した手に乘った物を一目見て「ああ」と少年は笑顔を見せた。 「執事のままでの表現は出来ないよ。どうして執事を買わなかったの?」  蝶ネクタイを手に彼が苦笑いする。 「どうだっていいでしょ。中が気になるの早くして」 「せっかちだなぁ」  呆れ顔をしながらも彼はすぐに自分用の保存場所へとデータを移し始める。  しばらく目を閉じていた彼が再びティアラに目を向けた。その時、先ほどの彼とは違う空気をまとっていた。  それは親しい友達と言うよりも、幼馴染みのそれに似ていた。 「ティアラ、少し痩せたみたいだね」  ティアラの頬に手を添えた彼が心配げに彼女の顔を覗きこむ。 「ちゃんと食事はしてる? 疲れてるみたいだね、ミルクティー作ってあげようか?」  目を細めて笑う彼の目尻に小さくシワが寄る。彼の些細な表情に爺の面影があった。 「ハンサムな執事とは上手くやってる? 恥ずかしくてぎくしゃくしてたりしない?」  彼女の顔を見て少年はいたずらっぽく笑う。 「上手くやってるわよ。矢継ぎ早に・・・なんなの? うるさいわねッ」  むきになるティアラを彼は愛しそうに見つめた。 「すぐむきになるところは相変わらずだね、先が思いやられるよ。ウエディング姿を見るのはいつのことやら」  やれやれといった顔で少年は笑う。 「爺みたいなこと言わないでよ」 「そうだね、爺って呼ばれるのは嫌だから僕に名前をつけてくれる?」  ティアラはまじまじと彼を見つめた。 「名前? 無いの?」  彼はにっこりと笑顔を見せる。 「じゃあ、私からあなたへ名前を送るわ」  少しの間、彼を見つめて考える。 「フレドリック」 「はい、お嬢様」  辛いときも悲しいときも彼は黙って近くにいてくれる。  爺がしていたように、そっとティアラの時間を抱きしめるように優しい眼差しを向けながら。 ■ 終わり ■
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