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死神との取引
翌日の夕方、死神と事務所の近所の空き倉庫の中で会う事になった。
倉庫は管理上、鍵がかけられているが、死神は施錠など簡単に開いてしまう。
死神は、黒マントを纏い全身黒ずくめな服装をした、ロマンスグレーな容姿の男だ。
この男の仕事はこの世を彷徨う浮遊霊の取り締まりと、霊界の入口まで霊を案内し天国に送るか地獄に落とすか、決定する事である。
地獄では手に鎌を持った懲罰係の死神が、罪を犯した罪人の霊を永遠に懲らしめ続ける。
律儀な紳士の死神は、私より先に来て倉庫内で待っていた。
「死神、少し待った?」
と私が死神に近寄りながら話しかける。
「葉桜、大して待っていないよ、気にするな、ところで今日の要件を聞こう」
「ウフフ、死神は相変わらずせっかちだこと」
「実はね、1週間前に亡くなった『高梨萌霧』さんが何故死んだか聞きたいのよ、教えてくれる?」
「それは偶然だ、萌霧を殺したのは、マンションの萌霧の隣の部屋に住んでいた「渡瀬帆波」という女の生霊の仕業なのだ」
「帆波は最愛の萌霧の殺害後、自分の犯した罪の罪深さに気付き大量の睡眠導入剤を飲み自殺をした」
「警察も、帆波の自殺の情報をつかんでいたが、殺害犯人が普段萌霧と仲が良く、しかも非力な女の仕業だとは思わなかったようだ」
「殺人を犯した霊は殺人動機にもよるが、ほぼ地獄に落とされる」
「私は帆波の自殺直後から地獄に落とす決定が下される迄の間、彼女の霊体が逃亡しないよう見張っていた」
「しかし帆波は自分が地獄に落とされるに違いないと思い、私がちょっと目を離した隙に逃亡してしまった」
「今私は慌てて彼女の霊体の逃亡先を捜している」
「萌霧の殺害の真相を教えるから、その代わり逃げ出した霊体を捕まえて私に引き渡してもらいたい」
「萌霧さんの死の真相を教えてくれるなら、良いわよ」
「いつものように、私の相棒の姫都美が帆波の霊体が発する波長を感知し、その波長を追って逃亡先を突き止めるわ」
死神の説明によれば帆波は心から愛した男に捨てられ、それがトラウマとなり男性不信となり女性しか愛せなくなった。
帆波は密かに萌霧の事を愛していたらしい。
帆波はお隣さんとしては萌霧と仲良く付き合っていたが、それだけでは満足出来なかった。
以前、帆波は
「もし女性から好きだって言われたらどう思う?」
と冗談めかして萌霧に聞いてみた。
「それは友人として、好きなんでしょ?私だって帆波さんの事大好きよ」
と答えられ、萌霧にとって自分は恋愛の対象外なんだと帆波は確信した。
それならば、このまま隣に住む友人として付き合っていこうかと一時は考えたが友人では無く、どうしても萌霧の身も心も自分が独占したい。
隣に最愛の萌霧が住んでいるのに、何故自分が独占できない・・・・・・
深く思い悩んだ帆波は、ついにうつ状態に陥る。
そして強く決意する、
(萌霧を自分が独占できないならば、いっそ殺して彼女が自分以外の誰も愛せないようにしてしまおう)
あの日の夜中、ついに萌霧を独占したいという邪念に狂った帆波は、霊体離脱を起こし生霊となる。
青白く光る人型となった生霊は萌霧の体に馬乗りになり、彼女を絞殺したという訳だ。
死神との交渉が成立し、死神と別れる。
私は、これから事務所に帰り、萌霧さんに死の真相を報告する。
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