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その届かない数センチが
ひょっとすると、これは復讐なのではないか? そんな考えが僕の頭に浮かぶ。これは一家をケガさせてしまったことへの復讐だ。
そんな考えが浮かんだ僕の顔の近くに浅黒い肌の手が伸びる。僕はすかさずその手に噛みつこうとするが、住民はニヤリと笑って僕の歯から手を少しだけ遠ざける。数字にして数センチほど遠ざけただけだ。その届かない数センチが、僕を絶望に突き落とす。
いや、これは復讐というよりも代償なのかもしれない。僕の頭に別の可能性がやって来た。あの一家は僕が海に流したテレビのせいでケガを負った。その代償を支払わせようとしているのか?
僕のそばにいる住民が、白い歯を見せてニヤリと笑う。その手が握るのは恐ろしく旧式だが、それ故に素朴で凶暴なドリルのついた、わけのわからない器具。
僕は必死で鎖の巻きついた体をよじらせて、なんとか作業台から転げ落ちようとする。そうすることで凶暴なドリルから少しでも逃げようとするように。
それでも何本もの腕で押さえつけられている僕は、作業台の上から転がり落ちるどころか、脱皮中の芋虫のように作業台の上でモゾモゾと体をくねらすことしかできない。そんな僕の顔に凶暴なドリルが近づく。
これはあの一家の復讐なのか、それとも代償なのか? あるいはこんな島に流れ着いたこと自体が、単なる偶然なのか?
いずれにしても、真相などわからない。必死で体をよじらせる僕の耳に、素朴で凶暴なドリルの立てる回転音が流れ込んでくる。冷たい鎖が僕の抵抗を冷たく縛りつける。
(おわり)
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