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紫と黄色と赤黒い液体
今度は弁護士が話をはじめる。
「しかもですね、浮き袋に縛りつけられたテレビは液晶画面や裏側のプラスチックの覆いが割れて、中から飛び出した金属の部品や割れたプラスチックの破片も鋭利に飛び出していたんです。
おそらくは海を漂ううちに海水の塩で腐食したり、岩やクジラに衝突したりしたせいでしょうな。言わば、あなたが捨てたテレビは海を漂う凶器となったんですよ!
その凶器のおかげで、この家族は娘や息子さんまで大きなケガを負ったんです」
弁護士にうながされ、今度は娘と息子が涙を浮かべながら、僕の目の前に出てくる。やはりよく日焼けした、浅黒い肌の二人。
二人に付き添う母親もまた、悲しみと怒りの入り混じった表情で僕をにらむように見つめている。こいつがバカなことをしでかしたせいで……、みたいな視線。
「父さんを傷つけたテレビは、素潜りで漁をしていた僕の頭にも直撃したんだ! 金属の部品や割れたプラスチックも一緒に!」
息子は浅黒い肌の額に貼りつけられたガーゼを指さす。血や薬のせいなのか、ガーゼの真ん中あたりは奇妙な色合いのしみが浮かんでいる。紫と黄色と赤黒い液体が混ざり合って溶け出したような。
「それだけじゃない! 姉ちゃんは砂浜に流れ着いたテレビの部品を踏んで足をケガしたんだよ! 貝や海藻や拾っているときに!」
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