第一色 — 深き水底の色 —

8/9
前へ
/12ページ
次へ
村からの帰り道、泣き疲れて眠ってしまった子供をおぶって歩く。 無理もない。歳は十そこそこだろう。こんな小さな体にあれは荷が重すぎる。 自分もそれなりの人生を歩んで来たが、まだ御上がいた分救われていたのかもしれない。今後どうするかはこの子供次第だが、せめてこの先の未来は明るく幸せであることを願うしかない。 宿につくと女将さんが温かく迎えてくれた。 子供を部屋の布団に寝かせ、女将さんにご厚意で一階食堂で夕餉をとらせてもらった。 「あの子、これからどうすんだろねぇ。ウチは子供一人増えるのは大歓迎なんだけどね!!」 「ここにいるのが一番とは俺も思うがね、決めるのは童だ。起きたら聞いてみるさ」 夕餉を済ませて部屋に戻る。静かに寝息をたてて眠る子供を見やり、頭を撫でてみる。すると心成しか子供の表情が和らいだ気がした。 女将さんにはああ言ったが、正直共に旅をするのも悪くないと思っている。子供の面倒なんぞみたことはないが、御上のように自分もこいつにしてやれることはないかと……。それがただの自惚れであることは分かってる。分かっているが、自分の過去と重なり合わせてしまう。 「俺の事なんざどうでもいい。お前の人生だ。お前が選べ……」 それは子供ではなく、自分に言い聞かせるように吐いた言葉だった。 一晩明けて寝起きの一服。子供が目覚めるのを待つ。 丁度一服が終わる頃、子供が目覚めた。 「おはようさん、よく眠れたか?」 子供は目をこすりながら寝惚けたように「ぉはよぉ…」と返してきた。 「まだ寝惚けてんな。無理もない、色々とありすぎて疲れたんだろ。顔でも洗ってから下に来い。」 そう言って手拭いを渡し、自分は1階食堂に下りる。しばらくして子供が食堂に顔を出した。目覚めよりすっきりした顔をしている。 「おや!もう大丈夫なのかい?」 「はい、なんとか」 「そうかい!ならたんとご飯をお食べ!」 女将さんの明るさには助けられる。自分ではあんな風には振舞えないだろう。 子供が朝餉を終えるのを茶を飲みながら待つ。子供は朝餉を食べながら女将を対応しつつも、どうやらこちらをちらちらと気にしているようだった。 自分は気付かないふりをして茶を啜った。 朝餉を終え、女将さんの勧めもあり軽く子供と二人で街を散策することにした。子供ははしゃぐとまではいかないが、楽しそうにしていた。 街を散策している間、子供は俺の手をずっと離さなかった。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加