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朝日が昇る。
只々人気の無い山中で持て余す程広い屋敷に二人きり、親無しだった自分を育ててくれた。御上には本当に感謝している。
いつも通り余分な髪を後ろでまとめ、派手な羽織を身に纏う。
「行かれるのですね」
音も無く背後から声をかけられた。鐘が鳴るような軽く、透き通った声。
淡黄色の髪に瑠璃色の瞳を持った異国風の女性。萌黄色の着物に身を包む。
「ああ、御上が早く出て行けだとよ」
「その様な意味でおっしゃられた訳では無いかと」
「わぁってるよ。ったく、相変わらずお前は真面目だな」
溜息交じりに言葉を返せば、彼女は眉尻を下げ「申し訳、ございません」と謝罪した。別に怒っている訳でも、呆れている訳でもないのだが……。如何せん彼女は真面目過ぎる。
異国から来たそうだ。数年前、御上がどこからか拾ってきたらしい。詳細は分からないが、身寄りが無いのだとか……。この日ノ本では見目が異なるだけで嫌煙される。
『まぁ"色"が見えねぇ俺には違いが分からんが……』
身寄りが無いのであれば言葉も通じない異国の地で、さぞ孤独であったことだろう。今は言葉も馴染み、御上の古くからの友人である伊賀衆の下で暮らしていて、くノ一として修業を積んでいる。ここには時折顔を出すが……真面目過ぎるが故に冗談が通じない。
「まぁ、その真面目さと勤勉さはお前の長所さ。いいことだぜ?世の中お前さんみてぇな奴のが少ねぇからな。」
そう言って彼女の頭を掌で軽くぽんぽんと叩く。女性は少し伏目で頬を朱に染めていた。
「御上を頼んだ」
「…はい」
支度を済ませ、庭に出ていつもの縁側に座り、旅前の一服を済ませる。
「せっかくの初旅だというのに、いつもと変わらないじゃないですか」
つまらないといった様子で後ろの床から声をかける。いつの間にか異国風の女性は御上の傍に控えていて、どこか寂しそうな顔をしてる。
「いつも通りでいいのさ」
「貴方らしい」と笑う御上に、「んじゃ、またな」と言って立ち上がる。
屋敷の門を潜り、少しだけ屋敷に視線を送り山を下る。今生で御上と彼女に会うことは、きっともう無いのだろう。今日は随分と天気がいい。温かな春の日差しと眼差しを背に歩んで行く。
――――― 自分だけの"彩"を見つけよう
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