第一色 — 深き水底の色 —

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見慣れない人がいた。村の人間ではない、自分の目にはそう見えた。村の大人達と何か話していたのを見かけたが、顔も見ていないのに何故かその人にとてつもない恐怖を感じて、逃げるように家に帰った。  ――――― それは一瞬の出来事だった。 何が起こったのかは分からない。 居間にいた…はずだ。気が付いたら自分は畳の上に伏していた。体は動かない、朦朧とする意識の中で最初に聞こえたのは悲鳴だった。視界ははっきりしないけど紅く揺らめく光が見えた。 炎だ。燃えている。でも熱さは感じない。どうして……? 視界が歪む。意識が遠のく。危機的状況の中で何故か不意に思い出したのは、いつか夢に見たどこまでも深く蒼い湖の光景だった……。 落ちていく、深く静かな水底に……。 ***** 煙の臭いだ。特に物が焼けるような、肉が焼けるようなそんな鼻を衝く嫌な匂い。そこに僅かだが鉄錆に似た匂いも混ざっている。 「嫌な予感がするな……」 そう言って匂いのする方へと速足で進んで行く。細い道が続く森の奥、木々が途切れ視界が開けた先には小さな集落あった。農村だ。 つい最近の出来事だろう、まだ火の燻る燃え落ちた民家、ここで生活していたであろう人々がいたるところで血を流し倒れている。賊の襲撃か、また別の要因か、絶望的とも言えるこの惨状で一人でも生き残りがいないか探し始めた。 しばらく探すと集落の中でひっそりと佇む社を見つけた。ここはどうやら火の手もなく無事らしい。そこで数名の生き残ったと思われる人々を見つけた……が、どこか様子がおかしいことに気が付いた。 その人々は皆力無く、口は半開きで、眼に光は無く、どこか遠くの虚空を只々見つめている。それはまるでかの様に……。そしてもう一つ気が付いたことがある。この人々は、今まで見てきた人には無かった"彩"を持っている。  ―――――  例え褪せていようと、例え似た"彩"があれど、唯一人として全く同じ"彩"を持った者はいなかった。しかし、この者達は皆同じ燃え尽きた灰の様な色を持っている。 「どういうことだ……?」 怪訝に思った。いくら声をかけても肩を揺すっても人々に反応は無い。 「埒が明かないな。とりあえず他にも無事な者がいないか探してみるか……」 例え僅かでも希望を求めて…… あの夢は、きっと何かしらの意味がある。そう信じて……
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