第一色 — 深き水底の色 —

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男の人だったと思う。綺麗な人だった。 意識が途切れる寸前に見た、その笑顔は酷く優しかった。 『童、生きたいか?』 声は出せなかった。体も動かせない。 その問いに自分が死にそうなことは分かった。だから生きたいと、そう強く思った。 遠くの方でくぐもった声が聞こえる。誰かが誰かと会話をしているようだ。酷く重たい瞼をゆっくりと開ける。 随分と長く眠っていたのか、視界は白く濁っている。数秒後、段々と視界が定まってくると、最初にあの優しい笑顔の綺麗な男の人が目に入った。 男の人は自分が起きたことに気が付くと、「よぉ、気分はどうだ?」と優しい声で問いかけてきた。 「ぁ……の……」 「大丈夫」とそう言いたかったが、唇が震えて上手く声を出せなかった。 「まだ本調子じゃねぇな。無理すんなよ」 そう言って頭を撫でてくれた。その手は大きくて、温かくて…酷く優しかった。心地がいい。また、落ちていく……夢の中へと……。 ***** また元の街道沿いの集落に戻ってきた。 少し長く滞在していたせいか、それともこの派手な羽織のせいか、集落の連中は俺のことを覚えていて、事情を話したら若い男連中総出で手を貸してくれた。 生存者数名とこの子供を受け入れ、手当をしてくれた。 子供に外傷がなかった為、自分が預かることにした。宿に連れて行くと事情を聞いたらしい女将が、子供の分の宿代はいらないと言ってくれた。子供は回復後、もし望むならここに置いてくれるそうだ。 集落の薬師を部屋に招き、子供を軽く診察をしてもらう。意識がない以外異常が無いのを確認してもらった後、薬師に子供以外の生存者について容体を伺った。どうやら他の生存者たちも外傷は全く無く、ただその症状から恐らく精神に異常があるのではとのこと。まるでになってしまったようだと言っていた。 「廃人、か……」 子供に出会ったおかげで少しだけ分かった気がする。 俺が見えてる唯一の"彩"、これは生き物のに関係した何かではないかと。 『それこそなんかだったりしてな……。それよりも気がかりなのは……』 「んで?童の方は?」 「こちらも特に外傷のようなものは見当たりません。ただ他の方々と違って意識がないので、とりあえずは意識が戻るのを待つしかないかと……」 「そうか……色々と悪いな」 「いいえ、これが私の仕事ですので」 そう笑顔で答え、「では何かありましたら、また……」と言って一礼し部屋を出て行った。 まだ希望は残っている。今は穏やかに眠っているようにも見える。しばらく子供を見ていたら、うっすらと目を開けた。まだ意識がはっきりしないのか、瞬きを繰り返し目を泳がせている。数回の瞬きの後、子供がこちらを見やり目が合った。 「よぉ、気分はどうだ?」 「ぁ……の……」 消え入りそうな程小さく震える声。 「まだ本調子じゃねぇな。無理すんなよ」 御上が昔、自分にしてくれたように、子供が少しでも安心できるようにと成る丈優しく頭を撫でてみた。すると子供は心地良さそうに静かに寝息をたて始め、穏やかな眠りに落ちていく。 「大丈夫、まだお前の"彩"は消えていない」
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