1人が本棚に入れています
本棚に追加
窓枠に肘をつき、外を眺めながら煙管を吹かしていた。吸い込んでは煙を吐き出す。煙は外の賑やかな風に流され消えていく。
そろそろ朝餉でも食べに行くかと立ち上がろうとした時、「ぅ……」と子供が声を漏らした。顔を覗くと丁度目を覚ましたらしい子供と目が合った。
「おぅ、おはようさん」
「ぉ……おはよぅ……?」
「今日はちゃんと喋れるな」
子供の頭を軽く撫で、「今医者、呼んでくるからな」と言って部屋を出た。
*****
目が覚めたら、顔を覗き込む男の人と目が合った。
「おぅ、おはようさん」
「ぉ……おはよぅ……?」
「今日はちゃんと喋れるな」
「おはよう」が正しいのかは分からなかったが、男の人は僕の返答に優しく微笑み、軽く頭を撫でてくれた。大きくて優しい手。「医者を呼んでくる」と部屋を出て行き、しばらくして医者先生らしき人と共に戻ってきた。
医者先生のような人は僕のすぐ傍に腰掛け、診察を始めていく。軽い触診といくつか質問等をされた。その間男の人は、一歩離れた場所で心配そうに僕を見つめていた。
診察を終えると医者先生は、「問題なさそうです」と言って男の人に一礼して部屋を出て行った。
安心したのか男の人は優しい顔で、落ち着く低い声で話しかけてきた。
「大丈夫そうだな、腹は減ってないか?」
そう聞かれた瞬間、ぐぅ~と腹の虫が鳴る。男の人は一瞬驚いた顔をした。
少しの沈黙を置いて男の人はふっと笑い、「朝餉でも食いにいくか」と優しい笑顔で手を差し伸べてくれた。
差し伸べられたその手をそっと握ると優しく握り返してくれた。それは僕よりもずっと大きく、でも優しく、そして何より温かった。
最初のコメントを投稿しよう!