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第一話
「青山君はこの桜を見て何を思う?」
桜が舞い散る公園で白川未来路が青山丹に聞いた。桜の花が未来路のかわいさを一層引き立てている。
「えっと・・・・・・きれいだね」
丹は率直な意見を述べた。本当にきれいだと思っていたし、それ以上の言葉が出てこなかった。
「うん、いい答えだね」
未来路は背を向けて舞い散る桜を見ている。
その後ろ姿が丹にはどこか寂しそうに見えた。
「じゃあ、紅葉を見て何を思う?」
背後にいる丹に問いかけた。
未来路が手を前に出すとハートの形をした花がひらりとのった。
「えっと・・・・・・も、きれいだと思うよ」
他の言葉で表現したかったが圧倒的に語彙力が少なかったため同じ言葉になってしまった。未来路に何を思われているのか心配になった。
「うん、いい答えだね」
丹の心配をよそに未来路も同じ言葉で返した。
二人の間に気まずい沈黙が流れた。
丹が何か話そう口を開きかけたとき、未来路がくるりと反転して丹の方を向いた。
「それなら、普通の緑色の葉っぱと、赤色と黄色に紅葉した葉っぱだったらどっちの方が好き?」
優しい笑顔で丹の方を見る。それでもやはり何か悲しそうだ。
「もちろん紅葉した葉っぱだよ。色んな色がある方がきれいじゃないか」
即答した。ただ答えるだけではなく、今回は理由までつけた。
「そうなんだ。そうだよね、やっぱりたくさん色がある方がいいよね」
未来路の顔がはっきりとわかるほど暗くなった。
その表情を見て何かまずいことをいったのではないかと丹は思った。
「青山君の好きな色って何?」
話が少し外れた。どうやら明石の発言をくんでの路線変更のようだ。
「僕は青かな。見ていると落ち着く気がするし・・・・・・白川さんは?」
自分だけが答える側なのも失礼だし、少しきついと思ったので未来路に聞き返した。
「私は、白と黒と灰色かな」
未来路は考えることなく答えた。まるで答えがこれしかないと言わんばかりの早さだった。
「へぇ、理由を聞いてもいい?」
未来路のような女子高生はもう少し明るい色が好きなのかなと思い込んでいた丹は意外そうに聞いた。
「うーん、と・・・・・・理由は、ちょっとね」
意味ありげな答え方だったが、その言い方だけで理由を聞いてほしくないことは明白だった。
それは丹もわかったので聞かないことにした。
二人の間に再び沈黙が訪れ、二人の間を桜の花が横切った。
丹と未来路の初めての会話だった。
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