十二年

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 登校も下校も常に海斗と一緒。他のメンバーもいたが、俺と海斗のセットは鉄板だ。事件があったのは十二月のはじめのことだ。  日曜日にクラスメイトが公園に集まってバスケをしていたとき、その声は聞こえた。 「ミィ」  最初は気にしなかったが、海斗は真剣な面持ちでそこにいたメンバーに尋ねた。 「猫の声がしないか?」  全員が全員の顔を見合わせる。 「探そう!」  俺の提案で全員が公園中を漁りだす。そいつがいたのは公園の樹の下だった。黒い仔猫。体をブルブルと震わせながらか細い声で泣き続けていた。  海斗がそっとその仔猫を抱きかかえる。 「ミィ」  小さく鳴いた。逃げようとすらしなかった。 「どうしよう……」  抱きかかえた海斗がまた小さく呟いた。 「ここに置いてけないよ。こんなに震えているのに……」  いきなり猫を連れ帰ったところではいそうですかと飼うことを許してくれるとは思わない。だから俺はそう言った。 「……なら僕が飼う」  海斗のその言葉に俺は耳を疑った。 「だって海斗、転校を繰り返すんだろ?どうやって連れて行くんだよ?」 「そんなの分かんないよ!でも僕が気付いたんだ!僕に責任がある!」 「海斗……」  俺が海斗を見る目に間違いはなかった。俺らにできることは海斗を支えることだ。そこにいたメンバーを全員連れて、俺らは海斗の両親に頭を下げに行った。仔猫を助けてほしいと。  海斗の両親ははじめは渋ったが俺らのお願いを聞いてくれた。 「何度も引っ越すけど、ちゃんとついてきてね」  そう仔猫に頬擦りする海斗を見て安心はした。だが、俺らはそれぞれの親に頭を下げて、猫を飼うために必要な道具を仲間で集めることを決めた。餌に猫砂にトイレに餌のカップに水のカップ。  俺が用意したのは首輪だ。親に無理を言って訪れたペットショップでクリスマスツリーみたいな鈴がついた首輪。 「あははは!ダサいー!」  海斗はそれを見るなりそう笑ったが喜んでくれた。  そんなことがあった三日後、俺らは教室で海斗が年内で転校することを先生から告げられた。 「ごめんね……みんな……」  海斗がそう呟いた。 「謝るな!海斗が悪い訳じゃない!……でも連絡先教えろよ?年賀状描くからさ」 「うん。拓海、絵を描くの好きだって言っていたもんね……」  だが海斗が連絡先を教えてくれることはなかった。予定が狂ったのか、俺に教えてくれた引っ越しの日より早く海斗はいなくなっていた。噂では両親の離婚が原因じゃないかと言われていた。その時はスマホもなかったし、海斗の家に電話をかけたこともなかったし、住所すら知らなかった。八方塞がり。  それでも俺は海斗に向けての年賀状をその年末に描いた。送り先なんて分からない。ただ約束したから描いたんだ。
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