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海斗が連れて行った仔猫がなんと名前を付けられたのかも俺は知らない。最初の年賀状は猫のイラスト。俺が贈ったクリスマスツリーみたいな鈴をつけた猫。来年は丑年だからと背景は牛みたいな模様を書いて。
それとなく先生に海斗の引っ越し先を尋ねてみたが、先生も分からないと呟いた。本当に急なことだったらしい。何があったのか、俺が知ることはできなかった。
それでも海斗がいなくなっても海斗の話題はよく出た。それは三年生になっても変わらず、海斗の姿がなくても俺と海斗はセットだった。いついなくなるか分からないと覚悟していたのに妙な寂しさを感じた。
海斗が住んでいた家はいつの間にか全然知らない人が住み始めた。それを知ったとき、やっぱり寂しさが増した。海斗と一緒にいた期間はたった一ヶ月。思い返してみれば海斗が約束を破ったのは連絡先を教えてくれること以外にない。きっとそれは海斗の責任じゃない。
その年の暮れ。俺はまた海斗宛ての年賀状を描いた。もしかしたらまたいつか海斗と連絡がつくかも知れないと、そうなったら海斗は約束を全部守ったことになる。その時、俺が約束を破ることはできない。
毎年、宛先のない海斗への年賀状を描いた。母さんに物好きねなんて言われたけど、母さんに男の友情なんり分りゃしないよ。
中学生になった年、俺はスマホを買ってもらいSNSを始めた。もともと絵を描くのが好きだったから自分の絵をSNSにあげるようになった。世の中には俺より上手い人なんて沢山いるが、俺だって捨てたもんじゃないよ。それなりのフォロワーがついて沢山いいねがもらえる。
そこに海斗にあてた年賀状も載せてみた。もしかしたら海斗が見ていてくれるかも知れないと。
高校生になってはじめて彼女ができた。俺の絵が好きだと言ってくれた子。俺が毎年、海斗のために年賀状を描いているのを知ったときはちょっと引いてた。俺も意地でやっている。幼い頃の約束を守るため。それを貫き通すためには誰の約束も破る訳にはいかない。融通が聞かないなんて言われるけど、それは俺の信頼にも伝わった。
俺のフォロワーは徐々に徐々に増える。こんなにフォロワーが増えたのに海斗には行き当たらない。海斗のために描いた年賀状は十二枚目になった。十二年。十二枚目の年賀状は初心に帰り、クリスマスツリーみたいな鈴をつけた首輪の仔猫の絵。それが転機になった。
「可愛いですね。私のフォロワーに同じ首輪つけてる猫ちゃん飼っている人がいるんですよ。同じ黒猫で」
「へぇ。その方教えてもらえますか?」
そう尋ねたならば、その猫の飼い主のアカウントを教えてくれた。
そのアカウントを見に行くと俺の心は昂ぶった。
黒猫の写真。クリスマスツリーみたいな鈴の首輪。そこに添えられたコメント。
「タクミは十二歳になりました。この首輪、一月だけいた学校の友達にもらったんですよ。元気にしてるかな?」
それを見た瞬間、俺はそのアカウントにダイレクトメッセージを送った。
「突然、申し訳ありません。あなたの本名は高杉海斗というのではないでしょうか?猫のつけている首輪と同じものを俺は十二年前にその方に贈らせてもらいました。違っていたら申し訳ありません。俺は拓海って言うんです。どうしても気になってDM送らせてもらいました」
すぐに返信が来る。
「拓海?拓海なの?そうです僕は高杉海斗です。覚えていてくれたの?」
「やっぱり!やっぱり海斗だ!ずっと気になっていたんだよ」
「ごめんね。予定が狂っちゃって。もう十二年たつんだ。タクミももう十二歳だもんな」
「てかタクミって、俺の名前つけるなよ!」
「クリスマスツリーの鈴が衝撃すぎたからね」
「俺、約束守るために毎年、海斗宛ての年賀状描いていたんだぞ?俺が約束破る訳にいかないからな!」
「ほんと!?それ全部欲しい!連絡先は……」
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