14人が本棚に入れています
本棚に追加
死刑執行官
「どん・どん・どん」
「すいません。開けてください。お話があります」
こんな朝早くから、誰だ・・・・もしかしたら、俺が処刑した家族のものか・・・復讐に来たのかもしれない。
俺の仕事は、アビスの町の死刑執行官である。アビスの町では、理不尽な理由で、死刑になる者が多い。昨日の処刑者は、貴族の馬車の前に、飛び出してきた子供の母親が、貴族の交通の妨げたという理由で、死刑になった。
子供は、馬車に轢かれて、顔は潰れて、手足もグチャグチャに踏み潰されていた。母親は、子供の飛び散った、体の破片を集めて、泣き叫んでいたらしいが、その場で、母親は捕まり、馬車に乗っていた貴族が、馬車を汚し、通行を妨げた罪で、裁判所に連行するように衛兵に訴えた。
母親は、裁判所に連れていかれて、その場で死刑が確定された。この町では、死刑が確定すると、町の中央広場で、全裸にされ、長い棒なような物に、両手を縛られ拘束される。
死刑が確定された者には、何をしても許されるので、若い女性だったら、町の連中に広場で、蹂躙され、死刑執行までに、死んでしまう者も多い。
この母親は、30人近くの、町の男にレイプされた後、膣と、肛門に、棒を差し込まれ、下半身は血まみれになっていたが、息はしていた。
俺はそんな、蹂躙された罪人を苦痛から、解放するために、首を切り落とし、死刑を執行する。罪人たちで、まだ声を発することが、出来る者は、必ず同じことをいう。
「早く殺して」
俺は、この仕事に誇りを持っている。誰かが、苦痛から解放してあげないといけないからである。しかし、俺の仕事は理解されない。まず、町に住むことが、許されていない。
しかも、死刑になる者は、ほとんどが、地位の低い低級平民である。些細なことで、すぐに死刑にされてしまう。家族が死刑になると、広場で、大事な家族が、平民のストレス発散のため、ひどい目に遭わされる。
この町は、階級システムは、貴族、上級平民、中級平民、下級平民、低級平民、名無し、奴隷となっている。
家族が、死刑になって、町の平民に蹂躙された、怒りは、自分より、身分の低い奴隷に向けられる。
死刑執行官は、町に飼われている奴隷の仕事なので、死刑執行官の寿命は短い。たいてい、一年以内には、家族を死刑で殺された、低級平民に襲撃されて、殺されてしまう。この町では、奴隷を殺しても罪に問われる事はない。それほど、奴隷の地位は低い。
ついに、俺も命を狙われる日が、来たみたいだ。
俺は、窓の隙間から、玄関に男を確認した。まだ16歳くらいの、若い男だ。服は血でにじみ、ボロボロの見た事のない服を着ていた。
「いったい、あいつは何者だ。この町の住人だと思えない。もしかしたら、低級平民から雇われた殺し屋か・・・それにしても若い気もするするが。しかし油断は、できないな。殺される前に、殺してやろう。もし、殺し屋でなくても、この場所で、人を殺しても、見つかることはない」
「すいません。道に迷って困っています。話しを聞いてください」
俺は、覚悟を決めた。この部屋に、あの男を連れ込んで、殺すことを。そうしないと、俺が殺されるかもしれない。俺は、扉を開けた。
「何かようか」
「しつこくて、すいません。道に迷ってしまいまして、この辺に大きな町はありますか」
アビスの町は、かなりの大きな町だ。しかも、町への道なんか、迷うことなんて、ありえない。町へは一本道であり、看板も立っている。この男は怪しすぎる。
「町なら、ここから、東の方に向かえば、歩いて1時間くらいで着くはずだ。目の前の道を、そのまま進めばいいだろう」
「ありがとうございます」
しかし、コイツは何者だ。旅人ではないだろう。旅人なら、町に行く地図も持っているだろうし、怪しい者でないことを示す、身分証をまず見せてくるはずだ。コイツは、確実に俺を殺しに来た殺し屋に違いない。少し試してみるか。
「それより、お前は旅人か」
「はいそうです」
俺は確信を持った。旅人と聞いて、旅人と認めたのに、身分証を見せない。俺を頭の悪い奴隷の死刑執行官だと思って、馬鹿にしているのだろう。
「そうなのか、旅は大変だろう。きちんとご飯は、食べれているのか?よかったら、朝ごはんでも、食べていくか。丁度、朝ごはんの準備をしていたところだ」
「よろしいのですか」
「ああ、1人で食べるよりも、2人で食べた方が、楽しいというものだ。それに旅の話しでも聞かせてくれ」
「はい、僕もこの町のことを、教えてください」
この町のことを、教えてくださいだと・・・アビスの町を知らないとは、見えすいた嘘をつきやがって、コイツも俺の話しに乗ったふりをして、スキをついて、殺しにくるに、違いない。
「ああ、なんでも聞いてくれ、さあ、入りなさい」
俺は、男の動きを観察し、いつ襲ってくるか注意をはらった。俺は、男を部屋に案内し、椅子に座らせた。そして、一階の部屋から、離れて、2階に護身用おいてある斧を取りにいった。
失敗は許されない。多分近くに仲間がいるのだろう。俺を油断させて、仲間に合図して、俺を殺すのだろう。仲間にバレないように、悲鳴さえあげることなく、一瞬で首を切り落としてやる。
俺は、足音を立てないように、ゆっくりと、男の背後に近寄り、一瞬で、頭を切り落とした。
ありえない・・・頭を切り落としたのに、コイツは生きている。俺は、死刑執行官として、いくつもの首を切り落としてきた。頭を切り落とした後でも、手足をバタつかせる者も、たまにいた。しかしコイツは違う。
コイツは、切り落とされた頭を拾い上げ、首にくっつけるようにしている。
「化け物め」
化け物は、痛みがあるみたいで、断末魔のような大きな悲鳴をあげている。
「死ね、この化け物め」
俺は化け物の右足を斧で切断した。ものすごい勢いで血が吹き出ている。化け物は、さらに大きな悲鳴をあげるが・・・化け物は死なない。それどころか、右手で、頭部を押さえ、左手で、右足の切断面を抑えている。
「うぉぉぉぉぉぉぉー」
俺は逃げ出した。あんな化け物を相手にすることなんてできない。とりあえず町へ報告しよう。あんな化け物が、町に来たら大混乱になるはずだ。
最初のコメントを投稿しよう!