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宿屋
町に入るには、あの門を通らないといけない。門を通るには、何か必要なのだろうか。俺は、この世界のことは何も知らない。だから、考えるだけ無駄だ。門へ向かおう。
「あの、すいません。町に入りたいのですが」
「身分証を見せてもらおう」
「持っていません」
「身分証がないのなら、町に入ることはできない」
「身分証はどこで、もらえるのでしょうか」
「何を言っている。身分証は生まれた時に、発行されるだろう。こっちは、忙しんだ。帰れ」
この国では生まれた時に、身分証を発行されるみたいだ。ということは、俺は、どこの町にも入れないのか。
失くしたと言えば、再発行してもらえるのかな。仕方がない。別の町を探そう。次は身分証は、失くしたことにしよう。
「おい、待ちな。俺が町へ入れてやろうか」
「チェイス勝手なことをすると、俺らがやばくなるぞ」
「大丈夫さ。お前は、名無しだろ。俺が手助けをしてやる」
名無し???なんのことだろう。しかし、これは、チャンスだ。何か裏があるかもしれないが、新たに町を探すのも大変だし、この男を信じよう。
「ありがとうございます」
「いや、気にするな。俺も人助けは嫌いじゃないからな。しかし、町には、入れてやるが、身分証がないと、結局は町を、追い出されることになる。俺の知り合いで、偽造の身分証を用意してくれる奴がいる。そいつのところに行くとよい」
「助かります。身分証は、お金は入りますよね・・・」
「ああ、持ち合わせはないのか」
俺は、あの男に家から、使えそうな物は、持ってきた。頭と足を切り落とされた仕返しに。
「少しくらいならあります」
「そうか。値段は直接聞いてくれ。町に入ったら、中央に大きな広場がある。その広場の入り口あたりに、大きな赤い屋根の宿屋がある。そこの主人に、チェイスの紹介で、来たと言えば、いいだろう」
「助かります」
お礼を言うと、俺は、町の中へ入っていた。
「チェイス、また小遣い稼ぎか」
「ああ、商品価値は、あまりなさそうだが、酒代くらいには、なるだろう」
「今夜はお前の奢りか」
「そうだな。でも、いい値がつくと、いいんだが」
この世界の町並みは、中世のヨーロッパみたいだ。日本にいた頃に見た、転生アニメの定番の世界観だ。この世界は、地獄の世界じゃなくて、異世界なのかもしれない。街並みといい、言葉も通じるし、俺の死ねない能力といい・・・
俺は、赤色の屋根の宿屋を探しに、中央広場に向かった。
すれ違う、人々は、あまり身なりの良い服装はしていない。だから、俺のブカブカの服装も大して違和感がない。しかし、中央の広場に近づくにつれて、人々の服装もオシャレになっていく。
そうなると、俺の方を、汚い者を見るような目で見てくる。中には、聞こえるような声で、俺を馬鹿にしている。
「あの格好は、低級だろ。なんでこのエリアにいるんだよ」
「低級は低級らしく、ゴミ地区にいとけばいいのに、自由エリアだからといって、汚らしい格好で来られたら迷惑だ」
俺は後で知ったのだが、この町はいくつかのエリアがあるみたいだ。町を入ってすぐのあたりは、低級という身分のものが住むエリアである。そして、広場のあたりに近づくに連れて、誰でも入れる自由エリアになる。しかし、景観が悪くなるので、低級の者はあまり近寄らない。
そして、中央広場を超えると、下級、中級、上級平民が住むエリア、シルバー地区になっていて、市場や飲食店、宿屋などのお店が立ち並んでいる。
さらに奥にあるのが貴族が住むゴールド地区である。そして、俺が通った門は、平民専用で、貴族は、この町の反対側の貴族専用門がある。
今俺のいるところは、自由地区だが、中央広場を越えるとシルバー地区になる。なので、俺に姿は、目立ってしまう。
俺は、周りの目が、気になるから、急いで中央広場に向かった。中央広場に着くと、すぐに宿屋はみつかった。
「何かようかな」
「チェイスさんの紹介できました」
「ああ、そういうことか」
「それなら、そこの椅子で腰掛けて、待っていてくれ。水くらいしか、出せないが、これでも飲んで、ゆっくりしときな。俺は、旦那様を呼んでくる」
なかなか、いい対応で迎えてくれた。もしかしたら、門番の人は、いい人だったのかもしれない。最初に出会った人間に、頭を切り落とされたので、人間不信になっていたのかもしれない。
せっかくのご好意で、出してくれた水だ。喉も渇いていたし、ありがたくもらうことにした。
それにしても、なかなか、旦那様という人物は現れない・・・なんだかすごく、眠たくなってきた・・・これはもしかて睡眠薬でも入っていたのか。
やっぱり、俺は罠に嵌められてしまったのだろう・・・
俺は、目が覚めると、牢屋に閉じ込められ、手足を縛られていた。
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