1 告げられる側

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1 告げられる側

 私は天使だ。  物心がつくころから、両親に洗脳のように擦り込まれてきた。でも、人には言うなとも言われた。幼いころは忠実に守っていた。無垢で何もわかっていないころの話だ。  成長していくにつれて思った。言っても仕方がないことなのに、と。事実を吹聴しても何もいいことはないな、と。  両親は天使のときの先輩たちだ。  どうやら私ひとりでは不安なために、本当の保護者として人間界に先行させていたのだ。今となっては余計なお世話に等しい。  なぜ、人の肉体を持って人間界にいるのか? 天国である試みをしようということになったからだ。  それは、 「人間に寿命を教えたら、どんな風に人生を歩むのだろうか?」  ただ、この一点だけである。これだけのために、ふたりの先輩は実体のない不老不死の存在から、命の限りがある人間として降り立った。二十歳(はたち)を超えた同棲カップルという設定として、だ。生きていくためのお金は、家の中で完結する仕事をあらかじめ与えられてもらえたらしい。  私はよくアルビノと間違えられるが違う。天使だから、髪も肌も白い。目は淡いブルーで視力がイマイチなため、眼鏡をかけている。そのせいでアルビノの特徴と一致するから、なおのこと間違えられる。今はもう否定するのも面倒だから、各々の思った通りになればいいと思っている。  そして、ふたりの容姿も私と髪と肌の色は一緒なため、外に出れば自然と目を引いてしまう。  外で働く仕事は無理だ。特に日本は身だしなみにうるさい国だ。しかし、上の命令で髪を染めることを禁じられている。  正直意味がわからない。ゲームで言えば、ハード以上の設定で生活していかなければならないのだ。人間界で徳を積んで、修行しろということなのだろう。  ただただ、余計なお世話なのである。  もちろん、人間の皮を借りて天使として地上にいるからには使命がある。さっき述べた試みを大学一年生になったある日、両親に告げられた。 「隣の仲良くしている恵麻(えま)ちゃん、このままだと二十歳で死んじゃうんだ」 「天音(あまね)、よく聴きなさい。あなたは今この瞬間から、人の寿命がわかる。どの人生を選択肢するのかも、どんな運命を辿るのかも。それに、どんな死に際を迎えるのかも」 「キミには恵麻ちゃんの運命を変えることが、特別に許されている。この子には、広義の意味で人々を幸せに導く力を持っているんだ。長く生きることで知識や経験が重なり、死後に天使となるときにはさらに花開くんだよ」 「あとはあなた次第よ。恵麻ちゃんの運命が変わらないのなら、二十歳に通り魔に刺されて死ぬ。何ヶ月からの付き合いの幼なじみが、そんな死に方をして、あなたはどう思うのかしらね」  これはもうやれという脅迫風のお願いだ。確かに脳内では、恵麻の最期のシーンが流れている。とても身近で家族同然の人間が、無惨にも殺されてしまう――これで心が動かされなければ人間として失格だ。  だけど、天使としても失格なのだろうか。寿命を覆し、この地上で死後のために生きる。天使の傲慢のようにも思えてくる。  そう一瞬思ったが、大好きな恵麻が死ぬのは嫌だった。  夜も遅く、もう寝ているだろう。早速、明日にでも伝えないとと思い、私はベッドに潜り込んだ。
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