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3話
「ふんふん、ロウの妹ちゃんはルンちゃんで、シアの妹ちゃんはネグちゃんだね!」
〈アーデルシェリ〉の儀式から1週間後。私たち3人は自分の妹の紹介を兼ねて昼食を共にすることにしました。
まあるいテーブルを6人で囲んで、それぞれが好きなものを食べています。
「は、はいっ!ルンって言います、よ、よろしくお願いします……!」
「……ネグ、です。あの、……よろしくお願いします……」
名前を呼ばれたロウの妹さん……ルンさんは、パスタを巻いていたフォークを慌てて置いて立ち上がり、ぺこりとお辞儀をしました。それを見習ったのか、ネグさんも立って挨拶をします。礼儀正しい自慢の妹です。
「ふたりとも、よろしくねー!」
「よろしくお願いします、ルンさん」
「ふふ、ルン慌てすぎ。ソースついてるよ?」
そういって、ロウは自分のハンカチでルンさんの口の端を拭いてあげます。ルンさんはぽうっとロウを見つめ、それから頬を赤く染めて恥ずかしそうにしています。かわいらしい女の子です。
「ご、ごめんなさいお姉さま……ありがとうございます」
まるでふたりだけの世界に入っていきそうなロウとルンさんを、羨ましそうな瞳でネグさんが見つめています。
「ネグさん」
「ッ!は、はい」
「皆さんにしっかり挨拶できてえらいですね」
そう言ってふわりと頭を撫でてあげると、みるみるうちにネグさんの頬も桃色に染まります。小さな声で「……ありがとうございます」と言ったあと、俯いてしまいました。照れ屋さんです。
「お姉様、アタシの紹介は〜?」
ゼンの妹さんが待ちきれない様子で彼女の肩をつんつんとつついています。おねだり上手さんですね。
「もちろん忘れてないよー!ふたりとも、この子があたしの妹のレタちゃんです!」
「えへっ、レタです♡よろしくお願いしま〜すっ」
まってましたと立ち上がり、かわいらしくお辞儀をするレタさん。肩のあたりで綺麗に切りそろえられた白髪に咲く色とりどりの淡い小花たちが、彼女の努力をものがたっています。
「と言っても、アタシたち1年は3人とも同じクラスなのではじめましてじゃないんですけどね〜」
「あら、そうだったんですね」
「ネグちゃん、学年代表なんですよ〜!」
「まあ!」
素晴らしいですね、とネグさんを見ると、顔を両手で隠してしまっていました。私の妹は褒められることに慣れていなくて、とっても恥ずかしがり屋さんなのです。
「それで、ルンちゃんが副代表なんです〜」
「わあ!うちもシアが代表でロウが副代表だから同じだねー!」
姉妹で代表副代表なんて素敵〜!と、ゼンとレタさんが盛り上がっています。
「ありがと、2人とも。でもそろそろごはん食べ終わらないと、昼休み終わっちゃうよ」
ロウに窘められた2人がはっとなって、慌ててまだ半分ほど残っているオムライスを頬張り始めます。時計を見ると、昼休みが終わるまであと10分ほど。ロウとルンさんは既にパスタを食べ終えていました。
「私たちも少し急ぎましょうか。おしゃべりが楽しくてつい手が止まってしまいましたね」
「は、はい……」
私とネグさんもサンドイッチを食べる手を少し早めます。まだまだ話したいことはたくさんありますが、今は午後の授業を乗り切るエネルギーを補給することが大切です。
- - - - - - - - -▷◁.。
午後の授業のあと、親睦を深めるために私とネグさんの部屋に集まっておしゃべりの続きをすることになりました。
右も左も分からない妹たちから、私たちに聞きたいことがあるそうです。
「ごめん、お待たせ。購買混んでて」
「ロウおかえりー!お菓子ありがとう!」
「これで全員揃いましたね」
お菓子を乗せた小さいテーブルを囲んで、6人で座ります。2人用の部屋なので少し窮屈ですが、この賑やかさもまた、悪くないですね。
「それで、聞きたいことって何かなー?」
「そうです〜!これなんです!」
と、3人が出したのは、手のひらサイズのコンパクト。
「先生が、最初に起動する時はお姉様と一緒になさいって……」
「ああ、〈シュクルメリアルーム〉だね」
「しゅくる……?」
「そのパクトの名前だよ」
シュクルメリアルーム。
入学時に全生徒に配られるコンパクト型のゲーム機で、〈おさとうのかみさま〉の元へ送り出すシュクルドールを育成するシミュレーションゲーム。携帯など一切の娯楽を許されないこの学園で、唯一私たち生徒が遊べる玩具です。
「へええ、育成ゲームなんですね〜!楽しそう!」
「十字の操作キーも、アイシャドウパレットみたいでかわいい……」
「キラキラで素敵です…!」
3人がわいわいと盛り上がっています。さっそく起動してもらいましょう。
「それでは皆さん、パクトを起動しましょうか。蓋を開けて下部分の1番下、ピンクのリボンのボタンを長押ししてください」
ボタンを押す3人。それぞれのパクトから、起動音である優しいオルゴール音が聴こえました。正常に動作したみたいです。
「わあ、上画面にかわいいお鍋が出てきました〜!なんですかこれ?」
「それは今からシュクルドールをつくるお鍋だよ!」
「つくれるんですか?!アタシたちが!?」
「わ、テキストが出てきました…!」
私はネグさんのパクトの画面を隣から見ます。
〈シュクルドールは、てのひらサイズのようせいさん。おさとうとまほうとすてきなものでできているの。〉
「いつ見ても本当にかわいいよね、シュクルドールの設定」
「ちょっとロウ、設定とか言わないのー!妖精さんは本当にいるんだからね」
「ごめんごめん、ゼン」
〈まずは、おんなのこをつくりましょう。たくさんのおさとうと、こんぺいとうをひとつぶ…。あとは、「すてきなもの」を入れたら完成。なにをいれる?〉
「あ、選択画面になりました。4つの中から〈すてきなもの〉を選ぶんですね」
「そうです。選ぶものによって、妖精さんの見た目が変わるんですよ」
「わ〜っ、素敵!どれにしよっかな〜♪」
ネグさんの画面に表示されているのは、〈てんしのはね〉〈キンモクセイのパフューム〉〈うさぎのぬいぐるみ〉〈ながれぼし〉の4つ。
「ネグさん、好きなものを選んでくださいね」
「はい……ええと、じゃあ、これで……」
ネグさんが選んだのは〈うさぎのぬいぐるみ〉。かわいらしいものが好きなのですね。
「ネグちゃん、どれにしたの〜?」
「うさぎのぬいぐるみ……」
「かわいい!アタシは〈まっかなリップ〉にした〜!ルンちゃんは?」
「ま、〈まあるいどんぐり〉にしました」
「どれもファンシーでめちゃめちゃかわいいね〜!」
仲良くおしゃべりをしている妹たちを見守っていると、再びそれぞれのパクトからオルゴール音がしました。シュクルドールが生まれたようです。
〈うさぎのぬいぐるみ〉を選んだネグさんの妖精さんは、ボブヘアーにうさ耳のかわいらしいドールになりました。
「わあ!赤いリップつけてる〜!リップ選んだからかな?かわいい!」
「私の子は三つ編みにそばかすで、森の中に住んでる妖精さんみたいです…!」
それぞれ素敵なドールが生まれたみたいです。
「それでは、ごはんをあげてみましょう。十字キーでキャンディのマークを選んでみてください」
「キャンディのマーク……」
「ここだよ、ルン。上の列、左から2番目」
「あっ、ありがとうございます…!」
決定ボタンであるピンクのリボンを押すと、〈マシュマロ〉〈かくざとう〉のふたつが表示されました。
「マシュマロと角砂糖……。これ、どっちがいいんですか?」
「良い質問ですね、ルンさん。シュクルドールの主な主食はマシュマロで、角砂糖は特別なごちそうなのです。生まれたてのドールの髪は真っ白ですが、角砂糖を食べさせることで髪の色を変えられるんですよ」
「髪の色が変わるんですか!?すごい!」
「ただ、本当に特別なものなので、角砂糖はかなり高価なのです。その分、角砂糖を食べさせたドールをかみさまの元へ送り出すと、かみさまからのお礼は豪華になりますよ」
説明を聞きながら、マシュマロをシュクルドールに与える3人。無事ドールもおなかいっぱいになったみたいです。
「他にも、ドールの着せ替えができたり、インテリアも変えられたり……できることは結構多いよ」
「この十字キーと決定キーの間のリボンはね、取り外しできるんだよー!追加コンテンツのリボンが購買で売っててね、それをここにつけられるの!」
6つのキラキラの瞳が私たちとパクトを交互に見つめます。3人とも、シュクルメリアルームを相当気に入ったみたいで私も嬉しいです。
「期末考査や体育祭などでいい成績を残すと、特別な追加コンテンツや限定デザインのパクトがもらえますから、ゲームだけでなく勉強や運動も頑張りましょうね」
「めちゃくちゃやる気出ます〜!」
「シュクルドールさん、とってもかわいい……」
「お世話すっごく楽しいです…!」
おしゃべりに夢中でテーブルのお菓子はほとんど減ることなく、太陽はあっという間に落ちていきます。妹たち同士も一気に仲良くなれたようで、私はほっとしました。
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