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プロローグ
祭壇の前で跪き、両手を組んで、目を閉じる。いつものお祈りです。でも今日はいつもより早く、ひとりでお祈りに来ました。今日は、特別な日ですから。
大きくて広くて、祭壇以外は何もない。真白なお部屋の中。聞こえるのは私の心臓が動く音だけ。私はひとり、お祈りを捧げます。どうか、どうか、
カラカラと、扉が開かれる音。お祈りをやめて音のした方を振り返ると、ふたつの影が見えます。
「あれ、シアもういたの?早いのね!」
友人のひとりがまあるいラズベリーピンクの瞳に私を映した途端、ふわふわ波打つ白髪をなびかせて私の方へと駆け寄ってきます。
「おはようございます、ゼン。セカレードは神聖な場所なんだから、走っちゃだめですよ?」
「あ、ごめんなさい。つい浮かれちゃって」
にへ、と笑うゼン。まだ幼さの残るかわいらしい容姿は、私と同じ学年にはとても見えません。
セカレードとは、今私たちがいる場所のこと。かみさまへのお祈りや重要な式典を執り行う時に使う、広いお部屋のことです。
「今日から私たちは〈姉〉になるのだから、落ち着いた振る舞いをしないと。ゼンはシアを見習った方がいいね」
歩いてゼンの隣に並んだのは、もうひとりの友人、ロウです。艶やかな白銀のショートヘアとレモンイエローの瞳が部屋の照明に照らされて、きらきらと輝いています。
「ロウだってセカレードに入るまではわたしと一緒にはしゃいでたじゃない!」
「ちょ、それは…!」
私はこほん、とわざと大きめの咳払いをして、言い合いを始めてしまいそうな2人のおしゃべりを中断させました。
「ここでは〈かみさま〉が見ているのですよ。はしたない言動はいけません」
そう言って、先ほどまでお祈りをしていた祭壇を見上げました。
〈おさとうのかみさま〉の祭壇。この白いお部屋の中で、この祭壇だけは絶対に動かしてはいけないと言われています。かみさまの好物だと言われている角砂糖を積み上げたような形の祭壇の両隣に、シュクルドールがふたつ眠っています。
「あ、シュクルドール補充されてる!」
「今日の式典で使うんだろうね、なんせ入学式なんだから」
ゼンとロウも祭壇を見上げて話します。
「さあ、椅子を出しましょうか。私たちの〈妹〉となる子達のために」
2人に声をかけながら、式典用の椅子がしまってある倉庫へと足を向けました。
準備の時間にはまだ早いですけれど。
私も浮かれているのかもしれませんね。
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