冬の花は牡丹に散る

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 芳勝の言葉に皆がざわつく。それを沈めたのは美芳の一言だった。 「すでに決めたこと。反故に出来るはずもない」  きりりと胸を張る美芳を見て口をつぐんだ者もそれでもどうにも納得出来ずまた口を開く。 「ですがお嬢さん」 「だけどなんだってお嬢さんが松野屋に嫁がなきゃならないんだ」 「そうだ、そうだ」 「みんなありがとう。でもわたくしが決めたこと。誰でもないわたくしが決めたことなの。だからどうか理解して?」 「お嬢さん……」  美芳の覚悟に唇を噛んで涙を流す者もいた。その中でただ一人、辰吉だけは理解できず放心している。 「寂しいなあ、なあ辰吉?」 「あ、あ? あ……」 「駄目だこいつ……。それでお嬢さんいつあっちに?」 「夜に」 「それはいつの夜ですか?」 「今日よ。今日の夜」 「今日ですか? さすがにそれは急過ぎやしませんか?」 「いいの。決心が鈍らないうちに行きたいから」  美芳は、それに、と口ごもる。 ――取引の再開は一日も早い方がいいから、とは言えないわね。  美芳は松野屋の若旦那に、嫁ぐかわりとして条件を出していた。それは根も葉もない噂を即刻取り消し、祝言で牡丹酒造の美酒を使うことだった。  松野屋の若旦那の祝言で美酒が振る舞われたとなればすぐに信用も取り戻せるだろう。 ――すべては牡丹酒造のため。  そうして美芳は身体だけ松野屋に嫁した。  心だけは辰吉の元に残して……。
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