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凍てつく風がひょうと泣き、共鳴した葉が重たく揺れるとその身に被さった白が落ちて緑を現した。
そこに赤い着物の女がゆっくりと足跡を刻んでいる。その女――美芳は雪の薄っすらつもる庭にある見事な牡丹の前に佇んでその真紅をじっと見る。
美芳は雪と見紛うほど白い手を牡丹の首に差し入れると顔を近付け、牡丹と間近で対面する。
すん、と美芳の鼻を鳴らす鈴のような音色が雪の上に溶けた。
続いて、くしゃり、と音がする。真っ赤な牡丹の中に美芳の顔がある。
世界はいっとき静止した。風さえぴたりと止まっている。
「ふああぁ」
艶かしい美芳の矯声が熱い吐息とともに漏れると白い息が舞った。
牡丹に埋めたその顔を上げる美芳の桃色の唇には黄色の花粉が散っている。それをちろりと妖艶な赤い花弁が舐め取った。
それを庭に面した廊下の片隅に隠れるようにして、息を潜めた辰吉が始終を見ていた。
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