冬の花は牡丹に散る

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――お嬢さんに熱を上げているのは自分だけではない。  辰吉はそう自身を戒める。  だが、自分で言うのもなんだが仕事も出来る。杜氏の息子でもあるし、それにお嬢さんと年が近いのも自分だけなのだ――そうも考えていた。  また牡丹酒造の跡取りは一人娘の美芳しかいない。誰が美芳の婿に相応しいか考えても大半の者が辰吉を頭に浮かべるであろう。  いつか美芳お嬢さんと一緒になれたなら――そう考え、夢に見るくらいであれば誰に咎められるはずもない。 ――ああ、美芳お嬢さん。  蔵に入る手前で辰吉は自身の腕に手をのせる。そこは先ほど美芳の雪のような白い手が置かれた所だった。
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