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辰吉が美芳の背を追い掛け、辿り着いたのは牡丹の咲く庭だった。風でも吹けばその重たい頭を落としてしまいそうなほど見事な紅が堂々と鎮座する。
「わたくしのせいだわ……」
「お嬢さんのせいな訳がありましょうか。ご自身を責めるのはお止めください。自分等の仕事が至らず申し訳ないです。ですが、どうにかしてまた元のように取引してもらえるよう働き掛けますんで――」
「違うのっ!!」
「お嬢さん?」
辰吉に背を向けていた美芳が振り返る。その勢いに冷えた空気が二人の間を舞った。
「わたくしのせい。まさか酒造に迷惑が掛かるなんて思いも寄らなかった。どうせわたくしへの嫌がらせに尽きるだろうと思っていたのに……。ごめんなさい辰吉さん」
美芳は何を言っているのだろうかと理解が及ばない辰吉は眉を顰める。
「お嬢さん? あの、上手く言えないですが、お嬢さんが気にやまれる必要は万に一つもないです。あとは自分等に任せてくだせえ! 大丈夫です。大丈夫です」
辰吉は笑顔を見せる。だが『大丈夫』などと言いはしたがどこにも根拠はない。それに加えて説得力さえ皆無だということは百も承知だった。
それでも美芳には憂い一つなく笑っていて欲しいと辰吉は願う。
「ね、お嬢さん……。さあさ、寒いですからお部屋に戻りましょう。炭はまだありますか?」
力なくこくりと頷く美芳に、辰吉はそれ以上どう声を掛けていいか分からなかったが、部屋に入るまではしっかりと美芳に付き添った。
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